2020年度は菌食アリ・ハキリアリの音声データの解析、および論文執筆を行った。これまでに収集した音声データが10時間以上あり、詳細な解析に多大な時間が必要であった。それを2020年度前半で全て終えることができた。また、操作実験として音声阻害群・フェロモン阻害群・コントロール群の行動レパートリー解析も統計の専門家に意見を聞きながら、進めることができた。これらのデータ解析の結果を現在Natureに投稿すべく論文執筆中で80%程度の完成度である。
聴覚器官の免疫染色については、生きた標本が必要となり、2020年度のコロナウイルス感染拡大の状況下で菌食アリ・ハキリアリを入手することが困難となり、近縁別種の中型・小型種での実験系確率を目指した。中型ワーカーの弦音器官の観察を、免疫染色することで行い、良好なデータが取れた。この体サイズでの腿節内弦音器官の免疫染色に成功した例は少なく、今後の研究の進展にとって貴重な成果といえる。腿節内弦音器官(FCO)は3つの感覚細胞グループからなり、その一部は基質振動に応じると考えられる。一方脛節にある膝下器官(SGO)も発達しており、これは基質振動受容に特化した働きを持つという知見も得られた。一方で、音に応じる弦音器官を探すべく、くまなく体内を調べたが、メジャーな感覚器が見つけられなかった。体表には鼓膜は存在しておらず、音に応じる器官があるとすればそれは気管と結びついたものだと考えられるが、発見には至っていない。
音声プレイバック実験によるアリの行動変容観察は、実験系の国内での確立を行った。また、オーストラリアでの生体標本やドイツにあるアリ類販売業者からのアリの入手などを検討した。実験系は、ZOOM H8 Field recorderや小型のプレーヤーとスピーカーを組み合わせることで良好な実験系を確立ことに成功した。