社会性昆虫では,コロニー内での分業により、異なる形態をもつ複数のカーストが存在する.一般にアリでは2つの雌カースト,すなわち有翅の女王と無翅のワーカーが存在し,後胚発生の過程でカースト分化が起こる.さらに、Myrmecina属の数種では,女王とワーカーに加え、その中間的な形態を持つ無翅の繁殖カースト(中間型)も生じることが報告されている.本研究では,カドフシアリMyrmecina nipponicaにおける中間型の分化機構を解明し,その適応的意義を考察するため,以下の解析を行った.まず,カースト分化経路を明らかにするため,幼虫の形態計測データをもとに主成分分析を行った.その結果,幼虫初期には3つのカーストを判別できなかったが,生態的要因などと総合的に考察し,中間型がワーカー系列から分化すること,そして,その分化が女王とワーカーの分化よりも遅い段階で起こることが示唆された.また,成虫の形態計測データに基づく主成分分析と走査電子顕微鏡による詳細な形態観察から,各器官の発達の程度をカースト間で比較したところ、中間型では女王に類似した部位(複眼など)とワーカーに類似した部位(胸部など)があり,これらの部位の形態は大きな変異を示した。今回の研究より,中間型は遅い段階で分化し,胸部や翅などの発達への投資を抑え,腹部や複眼などを女王同様に発達させることにより繁殖虫へと分化すると考えられた.今後はこのような形態の発生制御がいかにして起こるかを詳細に解析し,アリ全般に共通するカースト分化機構を解明するための足がかりとしたい.