【背景・目的】レニン・アンジオテンシン(RAS)系は、糖尿病性腎症をはじめとした糖尿病性血管障害への関与が示唆されているが、その機序は不明な点が多い。高血糖下において腎臓のRAS系が活性化し、メサンギウム細胞においてアンジオテンシンII (Ang II)はAng II type 1 receptor (AT1R)を介してtransforming growth factor-b (TGF-b)分泌を増加させることで、マトリックスタンパク質合成を亢進し、糸球体の線維化を亢進することが報告されている。本研究では、糖尿病性腎疾患の治療標的とされているプロテインキナーゼC (PKC)bに着目し、RAS系と1型糖尿病性腎症の病態機序を検討した。
【方法と結果】雄性Wistarラット(Control)、PKCbノックアウトラット(KO)、及びストレプトゾトシン(STZ)を投与し、1型糖尿病モデル(KO STZ)を作製し、腎臓を摘出してqPCR及びWestern blotを行った。Controlと比較してKOにおいてAT1R発現に差は認められなかったが、KO STZにおいてAT1R発現が減少した。また、糖の中間代謝産物であるadvanced glycation end products (AGE)のレセプター発現もKO STZにおいて減少し、線維化に関わるTGF-b発現も減少した。加えてタンパク質の翻訳を抑制するeukaryotic elongation factor 2 (eEF2)のリン酸化がKO STZで亢進した。
【結論】PKCbはeEF2/AT1R/AGEレセプター/TGF-b経路を制御することで1型糖尿病性腎症の病態進展に関与することが示唆された。