強毒型狂犬病ウイルスの西ヶ原株はストレス顆粒(SG)をほとんど誘導しない一方、弱毒型のNi-CE株は顕著にSGを誘導することに着目し、SG形成能に関与するウイルス蛋白質の特定を試みた。西ヶ原株とNi-CE株の各ウイルス蛋白質遺伝子を置換したキメラウイルスを人工的に作出してSG形成能を比較した。その結果、西ヶ原株感染細胞はSGを形成しなかった一方で、M蛋白質遺伝子を置換したキメラウイルス株感染細胞ではSGを顕著に形成したことから、M蛋白質がSG形成能に関与することを明らかにした。さらに西ヶ原株とNi-CE株のM蛋白質アミノ酸配列を比較すると29位と95位の2箇所に変異が生じていることから、西ヶ原株のM蛋白質29位および95位のアミノ酸をNi-CE株由来にそれぞれ置換したウイルス変異株[Ni(CEM29)、Ni(CEM95)]を作出し、各ウイルス株感染細胞のSG形成能を比較した。その結果、Ni(CEM95)株の感染細胞のみSG形成を顕著に誘導したことから、M蛋白質95位のアミノ酸がSG形成に重要な役割を持つことが示唆された。
次に狂犬病ウイルス感染に対するSG形成の意義を検討するために、宿主のウイルスセンサー蛋白質として働くRIG-Iの局在に着目した。その結果、西ヶ原株およびNi(CEM29)株感染細胞ではRIG-Iの集積は認められなかった一方、Ni-CE株およびNi(CEM95)株感染細胞ではRIG-IのSG内集積が認められた。さらに、各感染細胞の自然免疫関連因子IFN-βの遺伝子発現量を定量化した結果、西ヶ原株感染細胞と比較してNi(CEM95)株感染細胞では遺伝子発現量が有意に高かった。したがって、狂犬病ウイルスNi-CEおよびNi(CEM95)株が誘導するSGはRIG-Iによる自然免疫応答の「場」として働いていることが示された。