【目的】
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、マダニによって媒介されるSFTSウイルス(SFTSV)の感染によって発熱や血小板減少を示す人獣共通感染症である。SFTSは日本を含む東アジアを中心に発生しており、特に高齢者に重篤な症状を引き起こし、致死率は27%におよぶ。また、ヒト以外では犬や猫、チーターのSFTSによる死亡例も報告されている。SFTSを発症した犬や猫の咬傷によってヒトへの感染例が報告されていることから、SFTS罹患犬や猫における病態およびウイルス感染動態を明らかにする必要がある。そこで本研究では、犬を用いてSFTSVの感染実験を行った。
【方法】
生後6ヶ月齢のビーグル5頭に107 TCID50のSFTSV SPL010株を静脈内接種した。接種後0、3、7、10、14、21、28日目に体重、体温を測定し、口腔、角膜、直腸からそれぞれスワブを採取した。さらに血液と尿を採取し、血液検査および尿検査を行った。各スワブ、血清および尿からRNAを抽出し、定量RT-PCRによるSFTSV遺伝子の検出、およびVero E6細胞への接種によるウイルス分離を行った。
【結果】
SFTSV接種後3日目の感染群全頭で血小板減少、白血球分画の好中球比上昇およびリンパ球比減少が認められた。また、一部の個体で発熱、体重減少、食欲減退が認められた。しかし、接種後7日目以降は全ての犬が回復傾向を示し、血液検査でも正常値を示した。定量RT-PCRでは接種後3日目の感染個体全ての血清でSFTSV遺伝子が検出されたものの、7日目以降では遺伝子が検出されなかった。ウイルス分離においては、5頭中4頭から接種後3日目の血清からSFTSVが分離されたが、7日目以降では分離されなかった。
【考察】
本研究によって、SFTSV感染は、犬においても急性の熱性疾患を引き起こすことが実験感染下で初めて示された。一方で、感染犬は臨床所見の特徴に乏しく、獣医臨床での確定診断には遺伝子検査が必要であることが示唆された。本研究で用いたSPL010株は、同量の実験感染において、猫に致死的な症状を引き起こし、血液や唾液中には高力価のウイルスが排出される。本研究でウイルス接種した犬では、接種後3日目には急性熱性疾患を示し、血液からウイルスが排出されるものの5頭中全頭が耐過した。この結果から、犬は猫と比べてSFTSVに対して抵抗性があることが示された。