【背景と目的】ストレス顆粒(SG)は、化学物質や温度変化などの外的ストレスを受けた細胞が異常蛋白質発現を抑制する目的で形成する細胞質内構造物である。近年、SGはウイルス感染時にも形成され、自然免疫応答に関与することが明らかになりつつある。狂犬病ウイルスに感染した細胞においてもSGを形成することが報告されているものの、病原性との関連及びSG形成に関与するウイルス性因子は不明である。本研究では、病原性の異なる2株のSG形成能の違いに基づいて、SG形成に関与するウイルス蛋白質およびアミノ酸の同定を実施した。【材料と方法】強毒の固定毒である西ヶ原株(Ni)、その派生弱毒株であるNi-CE株(CE)、及びNi株のウイルス蛋白質をコードするN、P、M、G及びL遺伝子をそれぞれCE株由来の遺伝子に置換したキメラウイルス5種類を293T細胞に接種した。24時間後にSGマーカー蛋白質TIARを標的として蛍光抗体染色を行い、SGを観察した。さらに、Ni株のM蛋白質95位のアミノ酸をCE株のものに置換した変異株[Ni(CEM95)]及びCE株の同部位アミノ酸をNi株のものに置換した変異株[CE(NiM95)]についてSG形成能を検討した。【結果と考察】Ni株感染細胞はSGをほぼ形成しなかったのに対し、CE株感染細胞はSGを顕著に形成した。また、Ni株のM遺伝子をCE株由来に置換したウイルス株感染細胞のみがCE株感染細胞と同程度のSGを形成した。さらに、Ni(CEM95)株感染細胞はCE株感染細胞と同程度のSGを形成したのに対し、CE(NiM95)株感染細胞はほとんどSGを形成しなかった。以上より、CE株はNi株に対してSG形成能が著しく高く、その違いにはM蛋白質95位のアミノ酸が関与することが示された。現在、病原性とSG形成能の関連について検討を進めている。