【はじめに】SFTSは、発熱や血小板減少を主徴とし、SFTSウイルス(SFTSV)によって引き起こされるマダニ媒介性人獣共通感染症である。さらに、SFTS発症犬および猫の咬傷等によって人へのSFTSV感染例が報告されていることから、SFTS罹患猫や犬の病態およびウイルス感染動態を解析する必要がある。これまでの研究でSFTSV SPL010株は猫に致死的な症状を示し、血液や唾液中から高力価のウイルスが排出されることが明らかになった。そこで本研究では、犬に対する病態および感染動態を解明するため、犬へのSFTSV感染実験を行った。
【方法】生後約6ヶ月齢のビーグル8頭に107 TCID50のSPL010株を静脈内接種した。接種後0、3、7、10、14、21、28日目に体重、体温を測定し、血液、尿、口腔スワブ、結膜スワブ、直腸スワブを採取した。血液は血球検査および生化学検査に用いた。また、接種後5、14、28日目に2頭または3頭の解剖を行い、各臓器の状態を観察した。さらに血清、尿、各スワブおよび臓器からRNAを抽出し、定量RT-PCRによるSFTSV遺伝子の検出を行った。
【結果】接種後3日目の感染群全頭で血小板減少、リンパ球減少、好中球上昇が認められた。一部では発熱、体重減少、ALP・AST・CRPの上昇およびNa+の低下が認められた。7日目以降は全ての犬が回復傾向を示した。剖検では、接種後5日目で脾臓腫大、リンパ節の腫脹および消化管出血が認められた。定量RT-PCRでは接種後3日目の感染群全頭の血清および一部の結膜・直腸スワブでSFTSV遺伝子が検出されたものの、7日目以降では検出されなかった。臓器からはほとんどの感染群で脾臓およびリンパ節からSFTSV遺伝子が検出された。
【結論】本研究によって、SFTSV感染犬においても急性熱性疾患を引き起こすことが実験感染下で初めて示された。しかし、感染犬は臨床所見の特徴に乏しく、不顕性感染の状態でSFTSVを拡散する可能性が示唆された。SPL010株は、同量の実験感染で猫に致死的な症状と高力価のウイルス排出を示したが、本研究の感染犬では、接種後3日目には急性熱性疾患を示し、ウイルスが排出されたものの全頭が耐過した。この結果から、犬は猫と比べてSFTSVに対して抵抗性があることが示された。