平成30年度では、退化の関係を記述する新たな不変量を構成することを目的に、特徴的な例を見つけるべく具体例の計算を行った。超曲面環で加算CM表現型をもつ場合、特にD型超曲面環の極大コーエン・マコーレー加群の退化について考察した。全ての直既約加群に対して退化の関係を記述することはできたが、前年度A型超曲面環の場合に得られたような完全な記述を与えることはできなかった。しかしながらその考察の中で、退化の推移性を満たさない加群の候補を見つけることができた。一般次元においては退化の推移性の成立についてはわかっていない。今回見つけた例はその反例となりうる可能性がある。高次元の退化理論と古典的な退化理論との違いを明確にする重要な例であると考えられる。昨年度より考察を進めていた行列表現による極大コーエン・マコーレー加群の退化について、8月にチェコで開催されたWorkshop and International Conference on Representations of Algebras (ICRA 2018)について講演を行った。
本研究では、極大コーエン・マコーレー加群の安定圏において安定射の次元による関係が半順序関係(安定射順序)になる十分条件を与え、いくつかの超曲面環において安定射順序が退化の安定類似を導くことを示した。基礎環がゴレンシュタイン環のとき、グロタンディック群を定義する関係が概分裂完全列によって生成されるならば基礎環が有限表現型をもつことがわかった。極大コーエン・マコーレー加群の退化について、行列表現によって退化を見直し、それによってA型の加算表現型をもつ超曲面環で次元が1、2の場合に直既約加群の退化の関係を完全に記述することに成功した。