今年度は主に(1)公害資料館の設立に向けて取り組む実践者へのオンライン・インタビュー、(2)公害経験を含む「困難な歴史」をめぐるパブリック・ヒストリー実践者へのオンライン・インタビューと文献精読、(3)研究成果の公表、に取り組んだ。
(1)は、福島県いわき市で「原子力災害考証館furusato」の設立過程と、岡山県倉敷市水島地区での公害資料館設立に向けた準備過程についてのインタビューを行った。いずれも、原子力災害や公害といった「困難な過去(歴史)」を定型的な語りにはめ込むことなく、様々な立場・視点から捉えることを促し、対話の場を取り入れた資料館づくりを目指したものである。公害資料館が継承すべき経験の幅広さと、伝える方法の多様さを示す事例であると考えられる。
(2)は、大学の授業で公害事件を扱う教員に、主体的な学習を促す授業計画の工夫についてのインタビューを行ったほか、災害や事故などの災禍の経験や戦争経験をめぐる継承活動についての文献精読から、「困難な歴史」としての公害経験と共通した継承の内容と方法があることが明らかになるとともに、公害経験独自の課題もあることがわかった。
(3)は、昨年度に『環境と公害』誌に掲載された論文をもとに、公開オンラインシンポジウムを開催した。公害資料館ネットワークとの共催で、6名のコメンテーターを招き、公害経験継承の課題や公害資料館の専門性について、新たな論点を確認することができた。また、これらの成果をもとに、和文書籍と英文書籍の刊行に向けて原稿作成を進めている。国内外に日本の公害経験を継承することの重要性とその実践について発信することを目指す。