様々な自然現象の粒子論(原子論)的理解は科学教育の重要な目標であり、小・中・高の理科教育でも「粒子」を系統的に扱うことになっている。気体の圧力は、空気を圧縮したときの「手ごたえ」として小学校4年生から学習する身近な現象であるが、その本質は気体分子運動論であり、粒子論の基礎的な理解を測ることができる題材である。そこで、担当している大学の共通教育科目において気体の圧力の粒子論的理解の状況を調査した。
講義中に空気の分子間の空間が真空であることを説明したうえで、空気が真空を内包しているのに体積を保持できる理由をチャットで自由記述させたところ、回答学生の60%が「分子間力」と答え、「分子運動」と答えた学生は23%のみであった。また、「真空によって生じる圧力よりも分子間の反発力の方が大きい」といった真空についての誤概念に基づく回答も見られた。さらに、空気を注射器に入れて圧縮すると反発力がはたらく理由を自由記述させたところ、気体分子運動論的な理解に基づいた回答は3名のみで、「復元力」といったあいまいな説明(56%)や、「分子間の反発力」「作用反作用」「圧縮による熱運動の活発化」「分子同士の衝突」といった回答が見られた。また、講義後のレポートでは「分子の動く空間が狭くなり、ぶつかりあう力が大きくなり、反発力が生じる」といった分子運動についての誤概念に基づく回答も見られた。
授業では誤答も多いものの活発に意見が書き込まれ、満足度も88%と高かった。