【目的】
宿主組織に対する病原細菌の付着因子は感染症を成立させるために重要である。付着因子の一つとしてFibronectin(Fn)結合タンパク質(Fbps)が知られている。我々はガス壊疽を引き起こすウェルシュ菌が複数のFbpsを
有することを見出した。
Fnは血漿や組織中に含まれる細胞外マトリックスタンパク質(ECM)の一つであり、Fnの線維化は初期の創傷治癒に深く関与している。FnはType I,II,III のmoduleから構成されている2本のポリペチド鎖から成る。
Fn線維化はType III moduleの12~14番目(III12-14)と別のFn分子のType I moduleの1~5番目が結合することにより引き起こされる。 Dermatopontin (DPT)はこの反応を促進する生体内分子として、唯一報告されてい
るECMである。DPTの中でDP-4と呼ばれる領域(PHGQVVVAVRS)が主にFn線維化を促進することが知られている。
我々はウェルシュ菌Fbpsの中のFbpA・FbpBがDPTと結合することにより、DPT誘発Fn線維化を阻害したことを見出した。本研究はDPTの活性中心であるDP-4とFbpA・FbpBとの相互作用、さらにFbpAのどの領域が DP-4との結合に関与するのかについて検討した。
【方法】
FbpAのDP-4との結合領域を特定するために、FbpAを20~30残基ずつに分割したFbpA Over lapping peptide (OLP) No.1~11をジェンスクリプト株式会社に依頼して合成した。
1) rFbpA,rFbpBとDP-4との相互作用についてはEnzyme Linked Avidin Biotin Complex法(ELABC法)および競合Enzyme Linked Immunosorbent Assay (競合ELISA)で検討した。
2) FbpAのDP-4との結合領域の特定は各種FbpA OLPを用いて競合ELISA、ELABC法、Ligand Blotting法にて行った。
【結果と考察】
1) rFbpAおよびrFbpBとDP-4との相互作用
ELABC法によりrFbpA,rFbpBに対してbiotin DP-4は有意に結合した。競合ELISAによりDP-4はrFbpA,rFbpBに対するDPTの結合を濃度依存的かつ有意に抑制した。FbpA,FbpBは少なくともDP-4と結合している
と考えられた。
2)FbpAのDP-4との結合領域の特定
競合ELISAによりFbpA OLP No.1、2、3、8、9、10がrFbpAに対するDPTの結合を有意に抑制した。また、ELABC法によりbiotin DP-4はFbpA OLP No1、3、4、6、7、8、9、11と有意に結合した。Ligand
Blotting法によりbiotin DP-4はFbpA OLP No. 3、9に結合した。以上から,FbpAの中のNEKILSRFSELSNEEKELIDINKITDPLHI(No.3)およびIGNDTEVA FVSALCKTSNPEQ
GTYRSIGFD(No.9)の領域がDP-4との結合に関与している可能性が考えられた。