超高齢社会を迎えたわが国において、国民の健康寿命の延伸を目指し、2000年より「21世紀における国民健康づくり運動(以下、「健康日本21」)」が開始し、2013年からは「健康日本21(第二次)」が実施された。生活習慣の改善と疾病予防は、国民の健康寿命延伸の大きな課題であり、さまざまな取り組みが行われている。身体活動や運動の定期的な実施と維持はその改善対策の一つであるが、厚生労働省の調査では、この10年間で日常生活における歩数や運動習慣者の割合は横ばいから減少傾向となった。国民の健康に対する意識は高いものの、交通手段の発達、家事・労働の機械化や自動化によって身体活動量が低下してしまう日常生活において、行動変容をもたらすのは困難なことであり、行動が変容しても継続も難しい。2023年には身体活動・運動を推進するガイドラインが改定され、2024年より「健康日本21(第三次)」がはじまった。
日常生活の中で楽しみながら、継続して実施できる身体活動のひとつとして、イヌの散歩に注目している。わが国では、ペットのイヌとネコの総数は15歳未満の人口より上回っており、ペットの家族化が進んだことで、飼い主のペットの飼養に対する意識は大きく変化した。今や健康寿命の延伸という課題はペットでも同様である。イヌは人気が高いペットであり、社会性をもち、飼い主に散歩などの外出を定時に要求するという特性を持つ。本来イヌの散歩はイヌの健康管理を目的として行われるが、イヌの飼養に伴うイヌの散歩の実施は、飼い主の身体活動量増加にも寄与することが国内外で報告されている4。イヌの散歩は飼い主とイヌの共同身体活動であり、共同の健康づくり活動として捉えることができるが、健康づくりを実施するにあたり、安全へも配慮しなくてはならない。イヌとの散歩は身体活動としての強度は高くないが、暑熱環境下での実施では飼養者、イヌ共に熱中症予防の対策が必要となる。
シンポジウムではイヌの飼養が飼い主の身体活動量におよぼす効果を紹介するとともに、地球沸騰化が警告されている中、人とイヌの安全な共同身体活動(イヌの散歩)実施における課題について話した。