科学の発展を支え、健康で心豊かに人々が安心して安全な暮らしが営める社会の構築に資することが実験動物技術者の使命であると私は思う。そして実験動物技術者がそういう社会の構築に尽力してきたことは言うまでもない。
平成17年度より制度が始まり、倉敷芸術科学大学生命科学部動物生命科学科(以下、本学科)は平成19年度に(公社)日本実験動物協会より受験資格認定大学(以下、認定校)として認定を受けた。本学科は今年度で12期生を迎え入れ、9期生および10期生が実験動物1級技術者認定試験(以下、技術者試験)を受験した。当初と比較して技術者試験を受験する学生数は増加しているが、入学してくる学生が動物実験に対し批判的な意見を持っていることは変わっていない。学生は動物実験に対し無関心で感情的である。そのため「私達が健康に安全に生活していくために動物実験は必要」という説明で理解させるのは困難である。動物観をキーワードとして、人と動物の多面的な関わり合いについて向き合うことから動物の命を使うことへの理解が始まる。
本学科の学生は動物福祉学という科目において1年次から実験動物の福祉について講義を受ける。講義後、学生は実験動物へ福祉がこれほど配慮されているとは知らなかったと言い、3Rsへの配慮の必要性について共感する。しかし限られた時間内で経験のない数十名の学生をある程度の技術レベルにまで到達させなければいけない状況において、教育に使用する動物へ福祉の実践には多くの困難があり、認定校として3Rsへのジレンマをいつも抱えている。講義で3Rsへの配慮の必要性について共感した学生に、実習を通じて技術修得における3Rs実践へのジレンマについても説明することにしている。講義を聴くだけでなく、自らが動物実験実施者となり3Rs実践の難しさを実感することで、学生は動物福祉実践を正しく理解できるようになる。
現在13校にまで増えた認定校としての課題は各校の特色となる分野の知識と技術をもった実験動物技術者を養成し、動物実験分野に貢献できる人材を輩出することであると考えている。私は動物看護分野は動物福祉実践の一分野であり、動物医療特有のものではないと考えている。しかし動物実験と動物看護という真逆の分野がなぜ同じ学科内で教育されるのかと質問されることは未だ変わらない。この背景には「動物を看護する」ということが定義されていないこと、動物看護分野が家庭動物を中心に発展してきたことが影響していると考えている。我々人間と動物は非言語的にしかコミュニケーションを取ることができない。人医療では看護の対処となる患者にニーズを聞くこと、治療内容と患者のQOLについて説明できる場面が多い。しかしながら看護の対象が動物となるとニーズを聞くことも、実施している動物看護技術がどれほどの益があるのか動物に説明することもできない。学生も動物実験技術と動物看護技術を別のものと理解し使い分けようとする。動物には動物実験技術と動物看護技術の区別はつかず、どちらであっても苦痛を与える行為は福祉の低下を招き、well-beingの向上は福祉を向上させる。社会的ニーズに応える人材の養成を目指して認定校は教育をしていかなければいけない。「社会」とは「実験動物分野」と「一般社会」の両方であり、学生達には実験動物技術者の使命を成し遂げるための知識と技術を身につけることが出来る人材であるとともに、一般社会が求める動物福祉の実践を3Rs以外の視点で取り組めるような実験動物技術者になって欲しいと考えている。