2020年度は国内でアクセス可能なハドロサウルス科のクチバシ形状及びし四肢骨長のデータを取得し,事前に持っていたデータと合わせて予察的な解析を行った.解析の結果,クチバシ形状及び四肢骨長比は分類群及び環境によって異なる可能性が示唆された.環境の影響は四肢骨長比で特に大きく見られた.一方で,クチバシ形状は環境に依って違いが見られず,分類群の違いが大きく反映された.これらは,採餌行動において餌に近づく「接近フェーズ」においては地形などの環境が影響する一方で、餌を口に含む「摂餌フェーズ」においては分類群毎に違う物を食べることで競争を回避していた可能性を示唆する.ただし,現時点においてはサンプルサイズが小さい事もあり確実なことは言い難い.
上記解析に加えて、系統分類に用いる形質を使って,ハドロサウルス科のクチバシと四肢の進化速度の推移を追った.解析の結果,ハドロサウルス科に至る分岐で進化率が大きく上昇する事が判明した.特に四肢骨において進化率の変動が大きく,この結果は二足歩行から四足歩行への進化と対応している可能性が考えられる.また,進化率が大きく上昇するタイミングは,申請者らの先行研究で示唆されたハドロサウルス類が海岸環境に生息していた時期と一致しており,海岸環境への適応がハドロサウルス科の進化を促した可能性を示唆する.これらの解析の一部は国際誌に投稿・受理済みである.
加えて,今年度は岡山理科大学が保有するハドロサウルス科化石の記載分類を開始した.本標本は北米から近縁種が多産する種であり,発見された地層からはこれまで報告されていない分類群であることが明らかとなった.