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前進する四輪車両において,旋回時に前後輪の軌跡が一致せず「内 輪差」が生じることは一般的である.一方,直進走行時における前 後輪の軌跡のずれは車両の異常状態とみなされ,英語圏では "Dog tracking" と呼称される.現生の四足歩行動物では,旋回時に前後肢の軌跡不一致が見られる場合があるほか,車両の Dog tracking に相当する「直進時における前後肢の軌跡のずれ」が生じることもあり獣医学の研究対象である.直進時の軌跡のずれの発生要因としては,身体的要因(片肢の病変,左右の筋肉量差,育種に起因する前 後肢の不均衡など)や,脳・神経系の異常に起因する歩様の乱れな どが議論されている.いっぽう,古生痕学分野においては,竜脚類の旋回行跡における前後肢の軌跡のずれに関する解析は進められてきたが,直進時における軌跡のずれに着目した研究例はなかった. 2022年,岡山理科大学とモンゴル科学アカデミー古生物学研究所 の共同調査隊は,ゴビ砂漠中央部のホンギル地域(上部白亜系 Djadokhta層)で,直進歩行時における前後肢の軌跡のずれが明瞭に確認できる行跡を発見した.本行跡は全長27mで,28個の連続する後 足印が確認され,保存良好な後足印長は85cmを示す.行跡の前半部 15mでは直進状態で連続する前後足印が明瞭に確認できる.その後, 行跡は右方へ23°旋回し再び直進するが,行跡後半部の保存状態は不良である.左右の軌跡のずれは前半で顕著で,後足印13個が左右 交互に連続する一方,前足印は左側6個,右側1個のみを確認した. 未発見の右前足印群は左後肢による重複印跡で消失したと推察される.これを基に歩様を復元した結果,前肢の軌跡が進行方向左側へ 約1.0mずれていることが判明した.本知見は,当該個体が進行方向に対し体幹軸を左側に数十度回旋させた状態で歩行していたことを示唆する.Dog tracking に相当する現象が古生物で明瞭に確認され た稀な例で,大型竜脚類の歩行メカニズムの多様性を理解する上で重要な資料となる.今後,バイオメカニクスや獣医学的知見を統合することで,絶滅動物の特異な歩様復元への貢献が期待される. |