苦味受容体はG蛋白質共役型受容体(GPCR)ファミリーに属し,ヒトは当該遺伝子を25種類持つ.これらは機能する際にホモ又はヘテロ2量体を形成することから理論上325通りの組合せが存在し,各々の2量体が複数の苦味物質を感知できることから,苦味受容体が感受できる化合物は多岐に渡る.当初,苦味受容体の発現は味覚組織に限局されると考えられたが,最近は味覚器官以外の組織,例えば腸上皮細胞や胎盤組織での発現も報告された.しかし,いずれの報告もその生理学的意義にまでは至っていない.申請者はこの苦味受容体が種々のがん細胞や皮膚角化細胞にも発現することを発見した.では,がん細胞や角化細胞に発現する苦味受容体はどんな働きをしているのか?申請者は,これら細胞では苦味受容体は形質膜ではなく小胞体に局在することを明らかにし,その働きは細胞内に侵入した有害物を感受後,排出機構(ABC-B1発現誘導など)をオンにすることで有害物質を細胞外に排出し,これの蓄積による細胞ダメージから回避していると推察し,その証拠を積み上げつつある.この仮説を立証し,細胞内苦味受容体を標的とした新しいコンセプトの抗がん剤耐性回避薬,或いは,皮膚保護剤の開発を提案することが本研究の目的である.