骨格筋はわれわれが体を動かすために必要な組織である。骨格筋は、多核の細胞である筋線維の収縮によって力を発揮する。骨格筋は、損傷を修復する再生能と使用状況によって肥大/萎縮する可塑性を持つ。骨格筋の量(筋量)と健康寿命には相関関係があり、骨格筋の再生能と可塑性は健康増進の鍵となる。骨格筋の再生は、骨格筋幹細胞である筋サテライト細胞の増殖・分化によって生じる筋芽細胞同士が融合することで行われる。筋肥大は、主に筋線維のタンパク質合成量が増加することによって起こるが、骨格筋に大きな負荷が与えられた場合には、筋サテライト細胞に由来する筋芽細胞の融合によって新たな筋核を獲得する。筋再生と筋核数の増加を伴う筋肥大に共通する過程は、筋芽細胞の融合である。筋芽細胞は非筋細胞とは融合しないことから、筋細胞の融合には特異的なメカニズムが存在すると考えられてきた。本研究では、筋線維に筋芽細胞が融合する際に筋線維上に融合可能な部位が決定されるメカニズムの解明を目指した。
マウス筋芽細胞株C2C12は、20% 胎児ウシ血清(FBS)を含むDMEM中で2日間培養してから、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、2% FBSを含むDMEMに培養液交換して筋分化を誘導した。多核の筋管が形成されたところで、電気刺激装置C-Pace EMを用いて、電圧20V、パルス持続時間2.5ms、周波数1Hzの電気刺激を24時間与え、サンプル回収した。
まず、電気刺激を行った筋管の形態を観察および分析した。サルコメアのZ帯に局在するα-actininの免疫染色像から横紋形成が誘導されたこと、横紋筋型ミオシン重鎖の免疫染色像から筋管の横径が約1.7倍に,筋核数が約2倍に増加したことが明らかになった。筋核数の増加を伴う筋肥大の誘導が観察されたため、細胞接着や細胞融合に関連する分子に注目した。その結果、電気刺激によってM-cadherin、β-catenin、p120 cateninが細胞間に線状に局在することがわかった。その一方で、筋細胞の融合に関与することが報告されているmyomakerについては観察することができなかったため、検出方法の改善を検討している。また、ウェスタンブロット法による横紋筋型ミオシン重鎖の検出では、電気刺激によるミオシン発現量の増加が確認できた。今後はSUnSET法を用いてタンパク質合成量の増加をモニターすることを検討している。また、電気刺激によって筋繊維型の変化が起こる可能性が考えられるため、遅筋型ミオシン重鎖(Myh7)、速筋型ミオシン重鎖(Myh2、Myh4)の検出を試みている。