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槍形吸虫類は世界的に分布し,ウシやニホンジカなどに寄生する畜産上重要な寄生虫である。本吸虫は,日本国内では陸産貝類の一種ヤマボタルガイCionella lubricaを第一中間宿主とし,第二中間宿主のアリ類を経由して終宿主の家畜に感染すると伝統的に考えられてきた。しかし,日本国内におけるヤマボタルガイの主な分布地域は秋田・岩手以北であり,それら以南の本陸貝種のほとんどいない地域においても槍形吸虫類が終宿主に感染することが報告されている。筆者らはヤマボタルガイの生息が確認されていない岐阜県下で陸貝を調べ,オオケマイマイAegista vulgivagaから得られたスポロシストが,そのミトコンドリアDNA cytochrome c oxidase subunit 1 部分配列から,中国槍形吸虫Dicrocoelium chinensisと同定されたことを報告した。これは,日本で野生の陸産貝類が槍形吸虫類に感染しているのを確認した初めての事例で,オオケマイマイが家畜や野生動物への槍形吸虫類の感染源となっていることを示唆するものである。本稿では発表内容の概要とあわせて調査経緯を紹介する。 |