[目的]近年、感染症の流行が野生大型類人猿の地域個体群を減少させる要因の一つとして注目されている。また、観光客や研究者らが持ち込む病原体が大型類人猿に伝播する可能性も指摘されており、大型類人猿の保全を目的とした獣医学的モニタリングが必要であると考えられる。本研究は、野生大型類人猿の糞便内寄生虫卵検査を行うことにより、類人猿の健康状態をモニタリングすること、およびヒトと類人猿との間の寄生虫感染の有無について明らかにすることを目的とした。今回はとくに、現地で簡便に行える検査法の有効性について検討するため、予備調査を行った。
[方法]ガボン共和国・ムカラバ国立公園において、2006年12月27日から2007年2月2日の間に、ゴリラおよびチンパンジーからそれぞれ101個および30個の糞便を採集した。糞便は1日の追跡観察終了後にキャンプへ持ち帰り、飽和食塩水浮遊法により虫卵を検出し、同定を行った。
[結果と考察]虫卵の検出率は、ゴリラで7.9 % (8/101)、チンパンジーで26.7 % (8/30) であった。ゴリラの糞便からは回虫 Ascaris lumbricoides (3.0%)、糞線虫 Strongyloides spp. (3.0 %) およびその他線虫類 (2.0 %) が検出され、チンパンジーの糞便からは糞線虫 (13.3 %)、鞭虫 Trichris trichiura (3.3 %) およびその他線虫類 (10.0 %) が検出された。飽和食塩水浮遊法による虫卵検査で鑑別が不能であった線虫類については、虫卵培養法による成虫の同定や遺伝子診断が必要であると考えられる。また、飽和食塩水浮遊法は種子などの食物残滓が虫卵の検出感度を低下させている可能性があり、ホルマリン・エーテル法などの他の方法についても今後検討する予定である。本研究は、環境省GERF(F061:代表者西田利貞)によって行った。