犬におけるT4投与後の血中甲状腺ホルモン濃度の変化と食事の影響
佐伯香織, 小田民美, 三木陽 平, 清沢好男, 板橋由起子, 森昭博, 石岡克己, 左向敏紀
甲状腺機能低下症は犬の代表的な内分泌疾患の一つであり、主な症状は元気消失、徐脈、低体温、脱毛等である。治療にはサイロキシン (T4) 製剤の投与が行われ、T4製剤は食事と共に投与されることが多い。甲状腺ホルモンの作用は多岐に亘るが、中枢神経系および循環器系の機能維持には血中濃度が適切に維持されていることが重要である。しかしながら、経口投与されたT4製剤の血中動態に食物摂取が及ぼす影響については充分明らかではない。今回我々は、健常なビーグル犬 5 頭にT4製剤 (10 μg/kg) を経口投与し、食事の有無による総サイロキシン (TT4)、遊離サイロキシン (FT4)、トリヨードサイロニン (T3) および甲状腺刺激ホルモン (TSH) の血中濃度の変化について比較した。空腹時にT4製剤のみを経口投与すると、血中T4およびFT4濃度の有意な上昇が認められ、血中T3およびTSH濃度には有意な低下が認められた。一方、食事と共にT4製剤を経口投与すると、血中T4およびFT4濃度に有意な変化は認められなかったが、血中T3およびTSH濃度は有意に上昇した。これらの結果から、T4製剤を食事と共に経口投与すると、空腹時にT4製剤のみを経口投与した場合と比較して血中T4濃度の上昇が抑えられることが示唆された。
ペット栄養学会誌
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https://doi.org/10.11266/jpan.13.57