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Basic information |
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Name |
Kawamoto Daisuke |
Belonging department |
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Occupation name |
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researchmap researcher code |
7000027954 |
researchmap agency |
Okayama University of Science |
貴金属(Pd, Au)-塩化物錯体の吸着挙動と配位子交換反応の関係性
Awards at domestic academic meetings, conferences, symposiums and others
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水圏における元素の移行挙動を解明するためには,溶存化学種の性質の理解が必要不可欠である。特に,環境水中のpHや共存物質によって化学形態が複雑に変化する溶存化学種の性質の解明は地球化学における課題の1つとなっている。その代表例としてテトラクロリド金酸イオン([AuCl4]-)がある。硫化水素濃度が低い熱水中に溶存しているテトラクロリド金酸イオンは,pH変化や塩化物イオン濃度の変化に伴い逐次的に加水分解種([AuCl4-n(OH)n]-; n=1-4)を生成することが知られている。しかし,これら加水分解種は実際の実験系では単離することが不可能なため,個々の性質は明らかになっていない。その一方で,テトラクロリド金酸イオンは金属酸化物表面に吸着しないが,加水分解種は吸着するなど,加水分解反応に伴い性質が大きく変化することが明らかになっている。テトラクロリド金酸イオンの加水分解反応が金属酸化物表面への吸着駆動力に与える影響を明らかにするためには,加水分解反応に伴う電子状態の分析は必要不可欠である。そこで申請者はテトラクロリド金酸イオンの加水分解反応により電子状態がどのように変化するのかを明らかにすることを目的として研究を行った。 テトラクロリド金酸イオン並びにその加水分解種の電子状態並びに加水分解反応に伴う物性の変化に関して,DV-Xα分子軌道計算を用いて調査した。計算ではこれら化学種が原子番号50以上の金を含んでいるため相対論を考慮して行った。まず,イオン性の指標となる有効電荷の結果から,金のイオン性は加水分解反応に伴って増加し,特に1段階目の反応であるCl配位子とOH配位子の置換の際に最も変化することを明らかにした。続いて,共有結合性の指標となる有効共有結合電荷の結果から,Au-O結合よりもAu-Cl結合のほうがより共有結合性が強いことも明らかにした。この結果はHSAB則とよい一致を示しており,これまで定性的な議論しかできなかった錯体の安定性に対して定量的な議論を行うことに成功した。更に,1段階目の加水分解反応に伴い錯体の電荷密度分布に偏りが生じることを明らかにした。この結果は,加水分解反応によって錯体内に生じた双極子と鉱物表面に存在する水酸基の間の双極子-双極子相互作用が吸着駆動力であることを示唆するものである。上記のように,DV-Xα分子軌道計算を用いることでテトラクロリド金酸イオンの加水分解反応に伴う物性の変化や加水分解と鉱物表面への吸着駆動力との関係性を議論することが可能となった。
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