水圏における様々な元素の挙動を解明することは地球化学における重要なテーマとなっている。特に貴金属元素ではモデル物質として塩化物錯体を用いて,土壌を構成する金属(水)酸化物に対する吸着挙動が調査されてきた。パラジウム(Pd)に関する研究では,発表者は海底に存在する鉄マンガン団塊へのPdの濃縮機構を解明するため,二酸化マンガンに対して海水中の主要な溶存Pd化学種([PdCl4]2-と[PdCl3(OH)]2-)の吸着実験を行った。その結果,二酸化マンガンに対して[PdCl4]2-は吸着しない一方で,[PdCl3(OH)]2-は吸着することを見出している[1]。また金(Au)に関する研究では,浅熱水金鉱床形成機構を解明するため,水酸化鉄や水酸化アルミニウムに対して酸化的環境下で主要な溶存Au化学種([AuCl4-n(OH)n]-; n = 0 - 4)の吸着実験が行われている。その結果,上記の金属水酸化物に対して[AuCl4]-は吸着しないが,Cl-配位子とOH-配位子が1つ以上置換した[AuCl4-n(OH)n]- (n = 1 - 4)は吸着することが報告されている[2]。以上のことから,金属(水)酸化物に対する溶存Pd化学種や溶存Au化学種の吸着挙動は配位子交換反応と密接に関係していることが示唆される。両化学種とも特定の化学種を単離することが困難であるため,DV-Xα分子軌道計算法を用いて配位子交換反応に伴う電子状態の変化を明らかにすることで,金属(水)酸化物表面に対する吸着挙動との関係性を検討した。