土壌表面に対する溶存化学種の吸着現象は,水圏における溶存化学種の移行挙動を制御する要因の1つである。これまでは,土壌の約80 %を構成する酸化物表面と溶存化学種の表面錯体形成モデル(SCMs)による解釈が行われてきた。これは,酸化物表面への吸着現象を帯電した表面と溶存化学種との間の静電引力に起因する外圏錯体形成と,表面水酸基と溶存化学種との間の配位子交換反応に起因する内圏錯体形成で記述するものである。ところが,一部の元素では酸化物よりも土壌の残り20 %を構成する炭酸塩鉱物へ高濃度に濃縮されていることが知られている。例えば,カドミウム(Cd)は土壌中の平均濃度が0.06 mg/kgであるのに対して,炭酸塩鉱物中では0.2 mg/kgであり,土壌の構成割合を考慮すると約10倍濃縮されている。したがって,Cdなどの元素の移行挙動を明らかにするためには,炭酸塩鉱物に対する吸着現象の解明は非常に重要である。炭酸塩鉱物のモデル物質である炭酸カルシウム(CaCO3)表面には水酸基と炭酸基の2種類が存在することが知られており,この吸着現象にSCMsを適用するためには,吸着した化学種の原子レベルでの構造情報は必要不可欠である。そこで本研究では,CaCO3表面に対する溶存Cd化学種の吸着現象をSCMsにより解釈することを目的として,溶存Cd化学種の吸着挙動の調査と,吸着したCd化学種の状態分析を行った。なお,吸着したCd化学種の状態分析には,Cd K-吸収端X線吸収(XA)分光法と,その結果を補完するために,Cd2+周りの局所構造に敏感なCd L3-吸収端XA分光法を用いた。