【背景・目的】フィブリノゲンα鎖由来のアミロイド沈着は動物では
ニホンリスで全身性の病態が報告されているのみである。今回我々は
犬の心血管及び弁膜にアミロイド沈着を発見し、その前駆蛋白質とし
てフィブリノゲンα鎖(FibA)を同定したため、その概要を報告する。
【症例・方法】症例はシェットランド・シープドッグ、13 歳、去勢雄で、
当学受診2 週間前より食欲不振を呈し、近医にて黄疸を指摘され、精
査のため紹介来院した。血液検査で肝障害、黄疸を認め、腹部超音波
検査で肝臓に腫瘤状の病変が認められた。その後肝パネルは悪化し、
第7 病日に死亡した。全身剖検後に病理組織学的評価を実施したとこ
ろ、心血管にアミロイドを認めたため、組織試料からアミロイド沈着
をダイセクションし、LC-MS/MSにより構成蛋白質を同定した。
AlphaFold2 を用いて三次構造を予測した。
【結果】組織学的に心臓の血管壁および弁膜に結節性のアミロイド沈
着を認めた。心臓以外では肝臓の一部血管壁にも、同様にアミロイド
沈着を認めたものの、その他の検索組織に沈着はみられなかった。ア
ミロイド沈着の質量分析の結果、支配的構成蛋白質としてFibAが同
定された。質量分析ではFibAのαCコネクタ領域に該当する253-399
残基由来のペプチドが突出して検出された。構造予測の結果、本領域
はクロスβシート構造を取る傾向が予測された。肝臓腫瘤では肉腫が
観察されたが、アミロイドとの関連は不明であった。
【考察】犬の心血管に沈着するアミロイドの前駆蛋白質としてFibAを
初めて同定した。犬のFibAにおけるアミロイド形成領域は、αCド
メインの一部がアミロイドを形成するヒトやニホンリスとは異なって
おり、異なる病態形成機構によると考えられる。