【背景と目的】薬剤耐性感染症の抑圧は喫緊の課題であり、小動物臨
床においても抗菌薬の適正使用が推進されている。本研究では地域猫
が保有する薬剤耐性菌のリスク評価を目的として、愛媛県の離島に生
息する地域猫( 離島猫) および九州地方広域地域猫(九州猫)を対象に
調査を行った。
【材料および方法】離島猫89 頭より2021 年11 月から2024 年4月まで
継時的に採取した直腸スワブより分離した大腸菌株(204 検体)につい
て、ディスク法による薬剤感受性試験を実施した。調査を行った地域
猫はマイクロチップを挿入し継続調査を可能とした。対照群として、
九州猫212 検体を用いた。対象抗菌薬は、動物由来薬剤耐性菌モニタ
リング(JVARM)と厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業
(JANIS)の対象薬剤を考慮した19 種で実施した。
【結果】離島猫89 頭中15 頭(17%) において、いずれかの調査時期に薬
剤耐性菌が検出され、いずれの菌株もアンピシリンおよびセファゾリ
ンの両方のみに耐性を示した。九州猫から分離した大腸菌212 株中26
株(12%)において薬剤耐性が認められ、その内20菌株が2薬剤以上
に対する多剤耐性を示し、第4 世代セファロスポリン系に対して耐性
が認められた菌株が2 株検出された。
【考察】九州猫で耐性が認められた薬剤種や2種以上の薬剤に対する
多剤耐性が認められたことから、家畜飼育環境からの薬剤耐性獲得や
獣医療等、人為的な関与後飼育放棄されたネコが含まれている可能性
が考えられた。一方、離島猫は、2018 年に全頭去勢避妊が行われ、離
島という閉鎖的な環境に生息している。さらに、薬剤耐性を示した全
ての菌株がアンピシリンとセファゾリンの両方のみに耐性を示しこと
から、屋外生活環境下での水平感染による蔓延が示唆された。