【背景】クリプトスポリジウム症は下痢を主徴とする人獣共通感染症
で、おもな原因として Cryptosporidium parvum がある。感染した野生
動物の糞便中のオーシストが水系を汚染するリスクが知られている。
コウモリは人獣共通感染症を起こす様々な病原体のレゼルボアであ
り、Cryptosporidium も過去に検出されている。
【目的】我々は、人獣共通感染症の伝播における野生コウモリのリス
クを明らかにすることを目的として、フィリピンで疫学調査を進めて
いる。ここでは検出された Cryptosporidium に関する研究成果を紹介
し、それらのリスクを議論する。
【材料と方法】2019 年から 2024 年にかけてフィリピン国内の複数地
点にて野生コウモリを採取し、計 569 の腸管試料を得た。これらから
DNA を回収し、Cryptosporidium の 18S rRNA 遺伝子部分領域 (830
bp) を標的とした Nested PCR を行った。予想長が増幅した PCR 産物
についてシーケンスおよび分子系統解析を行い、検出された原虫の種
や遺伝子型を同定した。
【結果】これまで Cryptosporidium は 14 サンプルから検出されており、
うち 10 サンプルは C. parvum だった。14 サンプルのうち 1 つの個体
に異なる種のクリプトスポリジウムによる複数の感染が検出された。
またコウモリ特異的な Bat genotype や、胃感染性の種のみからなるク
レード内へ分岐する Cryptosporidium も検出された。
【考察】本調査において Cryptosporidium の検出された試料は少数に留
まった。だが、C. parvum が複数の試料から検出されたため、潜在的リス
クには留意すべきである。今後は他のサブタイピング遺伝子を調べること
で、より詳細に感染リスクを明らかにする必要があると考えられる。