【背景】ウサギはよく発達した虫垂を有する動物で、ヒトの虫垂炎モ
デルとして用いられてきた。一方、ウサギの自然発生性虫垂炎の報告
は少ない。本研究の目的はペット用ウサギの虫垂炎の疫学的および病
理学的特徴を明らかにすることである。
【材料と方法】虫垂炎として外科的切除された虫垂を病理学的、微生
物学的に検索し、発生要因となる因子について調査した。
【結果】症例は7 匹(雄4 匹、雌3 匹)で、緊急手術例5 匹(3 ~ 6 ヵ
月齢)、慢性例2 匹(20、121 ヵ月齢)。品種は6 匹がホーランドロッ
プ(HP)であった。癒着が6 匹、穿孔3 匹、術後死亡3 匹であった。
肉眼的に、急性例では虫垂全体の充血、腸壁の灰白色化を観察。慢性
例では虫垂の位置に大型膿瘍様腫瘤の形成がみられた。虫垂口・虫垂
の閉塞・狭窄はなく、しばしば虫垂は多量の腸内容を入れていた。病
理組織学的に、急性例では壊死性虫垂炎で高度な例では全層性の壊死
や炎症がみられた。慢性例の腫瘤は内腔に多量の壊死組織を入れた虫
垂であった。病巣には寄生虫や真菌は観察されず、虫垂内容の細菌検
査では全例で、Bacteroides 属細菌が検出されたが、明らかな病原性を
示す細菌は分離されなかった。
【まとめ】ヒトの虫垂炎は、様々な原因による閉塞や虫垂口狭窄によっ
て発生することが知られていて、ウサギにおいては実験的には虫垂閉
塞、自然発生性には寄生虫感染、Klebsiella variicola 関連虫垂炎が報
告されている。今回の検索では、急性虫垂炎は若齢個体で発生し、虫
垂の閉塞・狭窄や特定の病原体の関与なく発生し、明らかな品種偏向
があったことから、今後、虫垂の解剖学的形状や機能的な側面からも
検討する予定である。