【背景】ラナウイルス(RV)はイリドウイルス科、大型のDNA ウイ
ルスで、両生類、爬虫類、魚類に感染し、致死的な流行を引き起こし、
保全医学上重要な病原体と考えられている。トウブハコガメ(Terrapene
carolina carolina 以下Tcc)が相次いで死亡、検索したところRV 感染
症と診断された。
【動物】1 か所の野外放飼場で飼育されていたTcc 7 匹、フロリダハコ
ガメ3 匹、セマルハコガメ3 匹、全て成体、計13 匹の群で流行が確
認された。Tcc6 匹が流涎、顔面の腫脹、口内炎を発症し3 匹が死亡。
死亡個体を病理学的に、全13 匹にウイルス検査を実施した。
【結果】死亡3 匹すべてからRV 特異的遺伝子が検出され、病理組織
学的観察が可能であった2 匹には、偽膜性壊死性口炎、肝臓には偽好
酸球浸潤を伴う多発性巣状壊死が認められた。明らかな封入体はみら
れなかったが、電顕検索で脾組織にイリドウイルス様ウイルス粒子が
観察された。重篤な症状を示し回復生存個体1 匹の口腔拭い物から
RV 遺伝子を検出した。。RV 主要カプシド蛋白の遺伝子配列は過去に
国内両生類で検出されたRV と1 塩基違いであった。口腔病変の細菌
感染を除いて病原体は確認できなかった。
【まとめ】国内飼育下Tcc における致死的RV 感染症の流行を確認した。
Tcc 生息地の米国においてしばしばRV 感染症が確認され、保護動物
である本種の保全上の問題となっており、感染源としてRV 感染両生
類が考えられている。本事例では、カメは野生下両生類と接触可能な
野外飼育であったこと、RV 遺伝子の近似性から、同所的に生息する
両生類から感染したと考えた。本事例は国内初のカメ類の致死的ラナ
ウイルス感染症の報告である。