【背景】Providencia rettgeri(Pr)は、ヒト免疫不全患者の日和見病原
体として知られるGram 陰性桿菌である。爬虫類ではワニに髄膜炎を
伴う敗血症による集団死の報告がある。我々は国内で初めて神経症状
を呈し、急死したフトアゴヒゲトカゲ(Pv)のPr 感染症を見出し、
その病態を明らかにするために検索したのでここに報告する。
【症例】導入時期の異なるPv 約12 頭を同一容器で飼育。冬期に散発
的死亡があり、症例はその内の若齢2 頭で、No.1 は雌、上半身不動、
No.2 は雄、四肢脱力、口腔から粘液吐出後、急死した。剖検後、常
法に従い病理組織検索と、症例のパラフィンブロック抽出DNA と細
菌ユニバーサルプライマーを用いて分子生物学的に病原体検索を行っ
た。
【結果】2 頭ともにほぼ同様の所見で、高度心筋褪色、脾臓と肝臓の
貧血色があった。全身諸臓器の血管内および病変部に多数のGram 陰
性桿菌含有マクロファージ(M Φ)を認めた。2 頭ともに肝臓と脾臓
の多発性巣状壊死、M Φ浸潤、大腸粘膜下織に細菌、M Φ浸潤、水
腫があり、心臓にはNo.1 ではM Φ浸潤、心筋変性と過収縮帯壊死、
No.2 では心外膜にM Φが浸潤していた。No.2 の脳幹部髄膜下に小出
血、深層に炎症細胞の小集簇を観察。心臓、肝臓(No.1、2)、脾臓(No.2)
よりPr が検出された。その他、2 頭の小腸粘膜上皮の変性、好酸性~
好塩基性核内封入体を伴う巨大核を認め、電顕でアデノウイルス様粒
子を観察。
【考察】以上より、2 頭をPr 感染症と診断し、その病態は急性経過を
示す神経症状を伴う敗血症とした。そして、M Φ内感染を特徴として
いた。Pr は日和見病原体とされるが、爬虫類では流行すること、薬剤
耐性能を持っていることから、ペット動物におけるPr 感染症は獣医
療および公衆衛生上、注意すべき疾患と考える。