【背景】ヌートリア(Myocastor coypus:以下、Mc) は南米原産の齧歯類
で、侵略的外来種100に選定され各地で分布を拡大している。また、
各種病原体のレゼルボアとして重要視されている。一方でMcの疾患
に関する報告は少なく、老齢個体にみられる疾患の報告は見当たらな
い。本研究では、飼育下老齢Mcに発生した腫瘍の病理学的特徴を明
らかにすることを目的とした。
【材料と方法】行動研究用に飼育されていた飼育歴5年以上のMc5 頭
(雄3、雌2)を病理学的に検索し、うち雌2頭の頭部に腫瘍の発生を
みた。症例1は左眼球突出、症例2は左下顎に腫瘤がみられ、死後画
像検査と病理学的検査を実施した。
【結果】症例1は画像検査で左眼窩内を占拠する腫瘤がみられ、剖検
ではハーダー腺領域に充実性腫瘤がみられた。病理組織学的に脂肪滴
をもつ腫瘍細胞が腺房状や充実性に増殖し、頭蓋内に浸潤していた。
症例2 は画像検査で左顎関節部に骨融解を伴う腫瘤がみられた。剖検
では同部位に3cm大の腫瘤がみられ、肺や肝臓など全身転移がみられ
た。病理組織学的に紡錘形から多角形の腫瘍細胞がシート状や束状に
増殖し、周囲組織へ浸潤していた。腫瘍細胞の核は卵円形から長円形
で両端鈍、核分裂指数は40 以上/10HPFで、多核の腫瘍細胞を多数認
めた。腫瘍細胞はα -SMAに陽性を示した。以上の所見より、症例1
をハーダー腺腺癌、症例2 を平滑筋肉腫と診断した。
【考察】ハーダー腺腺癌はマウスに比較的発生が多く、転移が少ない
ことや病理学的特徴はMcと一致していた。顎関節部の平滑筋肉腫に
関しては原発組織を含めてさらなる検討が必要である。Mcを含む大
型齧歯類での腫瘍発生状況の把握は不十分で、その他の齧歯類の腫瘍
との比較のためにも今後症例の蓄積が欠かせない。