【背景と目的】真菌Ophidiomyces ophiodiicola;Ooは、豪州を含む欧米
の野生下および飼育下ヘビに致死的流行を起こすことから、生態系に
悪影響を与える第3の新興真菌症として注目されている。国内では、
2021 年アジア初のOphidiomycosis が飼育下外来種のヘビにおける流行
事例として発見された。従来、爬虫類の皮膚真菌症の主たる原因は
Chrysosporium Anamorph of Nannizziopsis vriesii (CANV)とされてきた
が、2013年に分子生物学的手法によってOo、N. guarroi;Ng、
Parananniziopsis spp などに再分類された。これらの真菌は宿主域や病
原性も異なることから、原因真菌の特定は本感染症対策に欠かせな
い。本研究は、Ophidiomycosis の病理学的特徴を明らかにし、爬虫類
の皮膚真菌症の確定診断方法の確立を目的とした。
【材料と方法】2021 ~ 2023年に4 科12 属15 種(1匹種不明)、延べ82
匹の皮膚生検材料および剖検例を病理学的、分子生物学的および微生
物学的に検索した。分子生物学的検索には、皮膚真菌症により死亡し
たヘビより得られたOo、Ng、 Parananniziopsis sp;Psp. を株化し、真
菌種バーコーディングの候補遺伝子領域を参考にITS部分の3菌種識
別部位を特定し、それぞれの真菌を検出するプライマーを設計して用
いた。
【結果】病理組織学的に37 検体に真菌感染を確認した。このうち、Oo
はNo.1サンビームヘビXenopeltis unicolor、No.2ボールパイソン
Python regius、No.3カーペットパイソンMorelia spilota、No.4ラット
スネークElaphe obsoleta から検出、分離された。肉眼的には、No.1、2、
4では、多病巣性に鱗の欠損、壊死、変色、痂皮形成などがあった。
No.4では、眼真菌症と称せられる特徴的頭部病変が観察された。No.3
では、鱗の肥厚、混濁がびまん性に生じ、高度な部分は斑状に膨隆し、
滲出もあり、他症例と異なっていた。病理組織学的には、真菌は皮膚
角質層および痂皮内で増殖し、胞子形成、隔壁を有する菌糸がみられ、
深在性の増殖はなかった。なお、病理学的にはサンビームヘビのNg
感染症と鑑別できなかった。分離真菌の遺伝子解析によりOoと一致
しないOphidiomyces sp. が確認された。
【結論】現時点ではOphidiomycosisを病理学的に診断することは困難
で、PCR法の併用が欠かせない。