【背景・目的】絶滅危惧II類に分類されるキリンの疾病として原因不
明の突然死症候群や蹄疾患などが知られているが、本種保全のための
疾病研究の現状は十分とはいえない。本研究は、種保全への貢献を目
的とし、飼育下キリンの病性鑑定によって見出した腎病変の病理学的
特徴を把握し、病理発生を解明することである。
【材料と方法】2018 ~ 2023年にキリン15頭を病性鑑定した。その内
訳はアミメキリン13頭、マサイキリン2頭、性別:雄8頭、雌7頭
年齢:1 歳8カ月から32歳で、うち12頭を本研究に供した。定法
に従い諸臓器を病理学的に検索した。併せて、7頭の血液検査結果を
解析した。
【結果】8 頭が発症後7 日以内に死亡していた。主たる腎臓病変は線維
化であった。症例によって軽重があり、弓状動脈周囲を含む間質線維
化、ボーマン嚢壁の線維性肥厚などが認められ、加齢によりその程度
が進行する傾向があった。そして、2 頭(19 と32歳)に皮質表層でよ
り重篤で顕著な尿細管基底膜の硝子様肥厚(AZAN染色で淡青色、
PAS反応陽性)を伴う特異な線維化が観察された。また、急性尿細管
壊死(ATN)が2頭に観察され、他に疑い例が3頭あった。10頭に心
冠部脂肪織膠様萎縮がみられた。7頭すべてでBUNとCreの両方ある
いは一方に異常があった。
【考察】本研究により、キリンは臨床病理的異常を伴う腎病変を高率
に有していることが明らかにされた。尿細管基底膜の硝子様肥厚は高
度の基底膜傷害後の反応として認識されており、複数例に観察された
ATNと皮質表層の層状線維化を考慮し、原因として虚血を疑った。よ
り正確に腎病変を把握するためには可及的速やかな解剖と丹念な病理
学的検索が欠かせない。貴重な症例を提供してくださった園館関係者
の方々に深謝します。