講演・口頭発表等

基本情報

氏名 田川 道人
氏名(カナ) タガワ ミチヒト
氏名(英語) Tagawa Michihito
所属 獣医学部 獣医学科
職名 准教授
researchmap研究者コード B000287587
researchmap機関 岡山理科大学

タイトル

日本獣医がん学会員における抗がん剤曝露意識調査

講演者

田川道人

会議名

第26回日本獣医がん学会

開催年月日

2022/07/02

招待の有無

無し

記述言語

日本語

発表種類

専門研究会・委員会報告

会議区分

国内会議

会議種別

口頭発表(一般)

主催者

開催地

URL

概要

【はじめに】
抗がん剤はがん治療において欠かせない治療法のひとつであり、獣医学領域においても広く実施されている。抗がん剤は患者にとっては有益な治療薬であるが、それを取り扱う医療従事者が抗がん剤に曝露することでその健康に悪影響を及ぼす「職業性曝露」が問題となっている。医学では、近年抗がん剤の取り扱いに関する指針が発表され、職業性曝露の認識が浸透してきているが、獣医学においては関連学会にて散発的に抗がん剤の取り扱いや曝露についての講演が行われているのみで、その安全性や曝露に関する認識は全く検討されていない。とくに獣医療では大小様々な動物診療施設で抗がん剤が取り扱われていることから、どのような認識をもってその取り扱いを行っているかを明らかにすることは重要である。そこで今回、まずはじめに日本獣医がん学会員に対して抗がん剤の曝露に関する意識調査を実施し、今後の課題について検討したためその概要を報告する。
【材料と方法】
 研究デザインは量的記述的研究とし、全国の日本獣医がん学会員を対象にメール配信にてGoogleフォームでのアンケートを実施した。アンケートは2021年11月24日~12月17日に無記名で行い、調査結果を発表する旨の承諾を得た。
【成績】
学会員2641名に対し、有効回答は231名であった(回収率8.7%)。回答者の性別は男性が73.6%、女性が26.4%、職業は勤務医が58.9%、院長が37.2%、大学教員・その他が3.9%であった。卒後診療経験年数は10年以上が70.6%、4~10年が27.7%、3年以下が1.7%と回答者の多くが十分な経験を有する獣医師であった。また動物診療施設の従業員数は21人以上が19.9%、11~20人が24.2%、6~10人が29.0%、5人以下が26.8%、診療形態は一次診療施設が90.9%と幅広い規模の一次診療施設から回答が得られた。 抗がん剤の取り扱い頻度は1~5件/週が81.4%、6~10件/週が13.4%であり、シクロフォスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、L-アスパラギナーゼ、トセラニブがほとんどの診療施設で使用されており、次いでカルボプラチン、クロラムブシル、ビンブラスチン、ロムスチン、ニムスチン、メルファランが半数以上で使用されていた。
76.2%が抗がん剤曝露に関する講演を受講したことがあり、51.5%が院内で曝露に関するスタッフ教育を実施していた。また95.7%が抗がん剤の曝露リスクについてよく理解している、またはある程度理解していると回答、95.8%が抗がん剤曝露に対する対策を十分、またはある程度実施していると回答した。行っている対策としては、グローブ、マスクの着用が98.3%、ガウンの着用が29%、安全キャビネットの設置が19.5%、閉鎖システムの導入が11.7%であった。抗がん剤の調剤は73.2%が通常の調剤エリアまたは診察室、処置室などで行っており、専用の調剤エリアで行っているのは20.3%、専用のエリアで投薬しているとの回答は3.5%のみであった。
動物看護師が抗がん剤の調剤および投与に携わると回答したのはそれぞれ25.5%、33.3%であり、汚染されたタオル等の処理にも動物看護師は64.5%が携わるとの回答であった。飼い主に対する指導として、77.9%が飼い主に曝露リスクの説明を口頭、18.2%がパンフレット等を作成し説明していた。また内服抗がん剤の処方時には90.9%でグローブの着用を指導していた。抗がん剤曝露に対する継続的なスタッフ教育が必要と回答したものは94.4%に上り、曝露に対する不安がある、多少あるとの回答は95.7%であった。
個別の回答では、対策をとる上でのスペースや費用の問題、長年の使用に伴う影響、スタッフ間の危機意識の差、使用頻度が低く実際にどの程度影響があるのかわからないといったものが目立った。
【考察】
  今回得られた回答では、10年以上の診療経験を有する獣医師からの回答が多くを占めており、様々な規模の動物診療施設で多種類の抗がん剤が使用されていた。日本獣医がん学会員に対して調査を行ったため、抗がん剤の曝露リスクへの理解や何らかの対策を講じていると回答が多くを占めていたが、医学の曝露対策方法として標準的な安全キャビネットの設置や閉鎖システムの導入を行っているとの回答は2割に満たなかった。また曝露リスクに対するスタッフ教育の必要性や曝露に対する不安を有する回答がほとんどを占めており、抗がん剤曝露に対する認識は多くの回答者が有しているものの、具体的な対策を取ることができず、不安が高まっているといった実態が明らかになった。今後は抗がん剤に不慣れな学会員以外での意識調査を行い、国内動物診療施設での抗がん剤曝露リスクとその実態について明らかにしていきたい。