本研究はカルモジュリン関連タンパク質キナーゼの一つであるeukaryotic elongation factor 2 (eEF2) kinase (eEF2K)を循環器疾患、特に高血圧症の新たな治療又は予防法開発のターゲットとすることを目指すものである。この為にeEF2Kの高血圧症の病態における役割を、腎機能に加えて脳(自律神経系を含む)にも焦点を当て明らかにすることを目的とする。
Eukaryotic elongation factor 2 (eEF2) kinase (eEF2K)は特異的基質であるeEF2をリン酸化することで、mRNAのリボソームのA部位からP部位への移行を阻害し、タンパク質翻訳を抑制的に制御するタンパク質キナーゼである。私はこれまで選択的eEF2K阻害薬A484954が本態性高血圧症モデルラット(spontaneously hypertensive rat: SHR)において血管拡張作用を介して単独で降圧作用を誘導することを明らかにした。また、これまでに、A484954がSHRにおいて利尿作用を誘導することを明らかにし、学術論文で公表している。今年度の本研究では、eEF2Kを標的として腎機能に焦点を当て、高血圧症の病態制御における急性作用を明らかにすることを目的に、A484954による利尿作用の詳細機序を検討した。
SHRにおいて、A484954による尿量増加作用はnitric oxide (NO)合成酵素阻害薬L-NAME共処置により抑制された。また、A484954による尿中Na+排泄増加作用もL-NAME処置により抑制された。加えて、SHR腎臓組織においてA484954はNa+再吸収を阻害することで利尿作用を誘導するアンジオテンシンIIタイプ2受容体mRNA発現を増加させ、これをL-NAME共処置は解除した。一方、Na+再吸収を促進することで抗利尿作用を誘導するアンジオテンシンIIタイプ1受容体mRNA発現はA484954により抑制されたが、この抑制作用にL-NAME処置は影響を及ぼさなかった。よって、A484954はSHRにおいてアンジオテンシンIIタイプ2受容体及びNO経路を介して尿中Na+排泄を増加させることで尿量を増加させることが明らかになった。以上の結果を纏め、第32回日本循環薬理学会で発表した。