Rhoファミリー低分子量Gタンパク質(RhoA, Cdc42, Rac1)を、介在神経の発生母地である内側基底核原基の脳室帯の前駆細胞から欠損させると介在神経の移動が障害されるが、移動中の介在神経で欠損させても移動は障害されない。これは介在神経の前駆細胞が移動する能力を有した成熟介在神経へと分化するのに必須のイベントが内側基底核原基の脳室帯に存在し、そのイベントにはRhoファミリー低分子量Gタンパク質が必須であることを示している。本研究はその分子メカニズムを解明することを目的としている。
先ず、Rac1とCdc42のノックアウトマウスを用いて、内側基底核原基の脳室帯のRNA発現解析を行い、Rac1とCdc42の下流で介在神経の移動能獲得に寄与する可能性の高い遺伝子として、Mid1とRgccをそれぞれ同定した。実際に、Mid1とRgccの発現はRac1とCdc42のノックアウトマウスでそれぞれ減少していることを、real-time PCRとin situ hybridization法を用いて確認しており、これら遺伝子が介在神経の移動能を獲得する過程に関与する可能性は非常に高いものと考えられる。
次に、ゲノム編集技術を用いてMid1とRgccのノックアウトマウスを作製した。ゲノム編集で作製した遺伝子改変マウスは、ガイドRNAが標的とする配列以外のゲノム領域に、意図しない変異が導入される問題(オフターゲット効果)があるため、その影響を減らすために野生型のマウスと6回の交配を行った。現在は、これらノックアウトマウスと介在神経で蛍光色素を発現するレポーターマウスとの交配を行っている。ノックアウトとレポーターのアレルを有するマウスが得られ次第、介在神経の移動に関する詳細な解析を行う。この実験により、介在神経の前駆細胞が移動する能力を有した成熟介在神経へと分化する機構を解明することができるものと期待される。