心臓血管外科手術では人工血管をはじめカテーテルなど多くの管腔医療材料が使われるが、異物反応による血栓閉塞・感染・炎症惹起などの合併症が問題となる。Diamond-like carbon(DLC)という極薄高耐久性カーボン膜は、古くから工業製品やプラスチック材料へ耐摩耗性やガスバリア性を付与する目的で活用されてきた。また、DLCは低コストかつ高化学安定性が期待できる無機コーティング素材であることから、冠動脈ステントや人工関節など様々な医療機器への適用が模索されている。当研究室ではDLCの医療応用研究を進めており、2018年には管腔構造物に対するDLC成膜に世界で初めて成功し特許を取得した。また、我々の技術は人工血管だけでなくカテーテル・管状ステント・人工心肺や透析回路など多くの管腔医療材料に応用できる。本研究の目的は、様々な基材におけるDLC管腔医療材料の生体適合性評価、特に血小板応答を詳細に調べる事である。同時に、我々が長年研究テーマとしてきたHigh mobility group box-1 (HMGB1)と、近年研究が進んでいる血小板からのエクソソーム(exosomes)を介した免疫応答に注目し、新たな生理学的知見や新規生体適合性指標を探求することも包括する。
これまでの基礎実験で、ePTFE基材へのDLC成膜により、ヒト血小板液接触試験による血小板付着が有意に減少することを見出している。一方、血小板活性化因子の評価では、ヒト全血接触後に血漿中に遊離したplatelet factor 4 (PF4)、β-トロンボグロブリン(β-TG)濃度にはDLCによる有意な変化は見られなかった。その他、血液接触後の血小板液からエクソソーム抽出および活性指標評価、DLC成膜ePTFE人工血管のラット腹部への埋植試験を現在進めている。