組織損傷関連分子群(Damage-associated molecular patterns; DAMPs)の代表である核内因子High mobility group box-1 (HMGB1) は、起炎性刺激によって細胞外へ放出される。一方、申請者はHMGB1が生理的活性物質によっても、血管内皮細胞から分泌されることを明らかにし、生理機能調節に関与するバイオセンサーとしての機能に注目するに至った。すでに、HMGB1の放出反応は抗HMGB1抗体の添加で殆ど完全に抑制されることを観察し、ポジティブフィードバックの存在を推定している。本研究では、血管内皮細胞をモデル細胞として用いることにより、HMGB1の分泌過程を解明し、一連のサイトカイン産生における増幅機能、内皮細胞ホメオステーシスにおける意義、細胞質内における新規機能の全体像を明らかにする。
平成31(令和元)年度は、トロンビン刺激あるいはヒスタミン刺激によって、培養ヒト血管内皮細胞(EA.hy926)の細胞核から細胞質を経由して細胞外へHMGB1が分泌されることを明らかにした。ヒスタミン刺激によるHMGB1の分泌は、ヒスタミンの濃度依存的に生じ、ヒスタミン添加後時間依存的に進行した。4種類のヒスタミン受容体アンタゴニストの内、H1-選択的なアンタゴニストであるd-クロルフェニラミンのみがヒスタミン刺激によるHMGB1分泌を抑制し、またH1-受容体アゴニストの2-ピリジルエチルアミンがヒスタミンの作用を模倣したことから、HMGB1トランスロケーションに関与する受容体はH1-受容体であると結論された。