不飽和カルボニル化後物は、有機化合物の燃焼によって発生する環境毒性物質である。不飽和カルボニル化合物は、肺でのガス交換を介して生体に取り込まれ、生理機能に影響を及ぼすと考えられている。したがって、生体内において不飽和カルボニル化合物に曝露されやすい器官は、気管や肺、血管、血液系細胞などではないかと考えられる。そこで、令和3年度には、不飽和カルボニル化合物や、不飽和カルボニル化合物を高濃度に含むタバコ煙が、気管上皮細胞に与える影響について検討した。その結果、タバコ煙ガス相やアクロレイン・メチルビニルケトンなどの不飽和カルボニル化合物が、気管上皮培養細胞において細胞死を引き起こすことがわかった。様々な細胞死に対する阻害薬を用いた検討を行ったところ、タバコ煙ガス相・アクロレイン・メチルビニルケトンによって誘導される細胞死はフェロトーシスであることが分かった。更に、プロテインキナーゼC(PKC)阻害薬によってこのフェロトーシス誘導が抑制されたことから、PKCの関与が強く疑われた。PKCは、10種類のアイソフォームを持つことが知られていることから、どのアイソフォームが本プロセスに関与するかを明らかにするため、アイソフォーム特異的の高いPKC阻害薬を用いた薬理学的解析を実施した。その結果、気管上皮細胞においてフェロトーシスの誘導に関与するPKCは、novel PKCもしくはatypical PKCに分類されるアイソフォームである可能性が高いことが判明した。