論文

基本情報

氏名 坂根 弦太
氏名(カナ) サカネ ゲンタ
氏名(英語) Sakane Genta
所属 教育推進機構 基盤教育センター 科学技術教育部門
職名 教授
researchmap研究者コード 1000194578
researchmap機関 岡山理科大学

題名

教育用分子軌道計算システムeduDVの開発(2)

単著・共著の別

著者

坂根弦太

概要

分子軌道計算, DV-Xα法
限られた講義時間内で学生が,何の予備知識もなしに,いきなり周期表元素の原子軌道や,教科書に掲載されている様々な分子の分子軌道を自ら計算して,原子・分子軌道のエネルギー準位を知り,原子・分子軌道の三次元的な分布状況を確認することができる“教育用分子軌道計算システムeduDV”を開発,整備し,GUIでの動作を実現,さらに開発を続け,最新版のプログラム一式とマニュアル,および論文を一般公開している.eduDV,および結晶構造,電子・核密度等の三次元データ可視化プログラムVESTAを含んだ“DV-Xα法のための統合支援環境”は,eduDV,DV-Xα法,秀丸エディタ,DV-Xα法計算支援環境,VESTAから構成されており,教育・研究目的ではほぼ無償で(秀丸エディタのみシェアウェア,ただし金銭的に難儀している学生の方(学校内設置のパソコンで学生の方が使用する場合もOK)には秀丸エディタフリー制度(アカデミックフリー個人・アカデミックフリー団体)がある)全ての環境を構築することができる.岡山理科大学情報処理センターの学生実習用パソコンの全てにeduDV,DV-Xα法,秀丸エディタ,DV-Xα法計算支援環境,VESTAがインストールされており,基礎化学・無機・量子化学系の講義・実習で活用できる.現在のところ,理学部化学科の1年次前期必修科目“コンピュータ入門I”(担当:坂根,畠山),2年次後期選択科目“無機化学III”(担当:坂根),大学院理学研究科化学専攻科目“錯体化学II”(担当:坂根)でこのeduDV,VESTAを含んだGUIベースの“DV-Xα法のための統合支援環境”を利用している.教育用分子軌道計算システムeduDVは,分子の形(点群)を選び,必要最低限の情報(分子を構成する原子の原子番号,原子間距離,原子間角度)を会話形式で入力するのみで,DV-Xα分子軌道法プログラムを実行するのに必要な入力ファイル(F01, F25, F05)が準備され,マリケン・ポピュレーション・アナリシスを使ったセルフ・コンシステントな方法(セルフ・コンシステント・チャージ法)で各原子軌道の電子数がセルフ・コンシステントになるまで繰り返し計算が行われ,計算が収束したのち,各分子軌道のエネルギー固有値の表(F08E)を出力し,引き続いてそれぞれの分子軌道が,どのような原子軌道から構成されているかを調べるポピュレーション解析プログラム(POPANL),各原子の有効電荷(Net Charge)を求めるプログラム(NETC),原子間の共有結合性の強さの目安となる有効共有結合電荷(Bond Overlap Population)を計算するプログラム(BNDODR),F08Eのそれぞれの分子軌道の成分を図示するプログラム(LVLSHM),HOMO-LUMO近傍の分子軌道間のエネルギー差(単位:eV)を計算して波数(単位:cm-1)および波長(単位:nm)に変換するプログラム(HLGAPS),全分子軌道および電子密度,静電ポテンシャルについて,VESTAで読めるデータファイルを作成するプログラム(CONTRDALL)などの周辺プログラムが全自動で実行される.ユーザ(学生)は,あとはVESTAで任意の分子軌道の波動関数等値曲面図,分子の中での電子の僅かな偏りが俯瞰できる静電ポテンシャルマップなどを三次元可視化して,自由に拡大・縮小,回転させながら手に取るように眺める事ができる.化学の講義・実習にeduDVを用いる場合,まずは単原子(原子軌道)を取り扱い,量子数(主量子数,方位量子数,磁気量子数)と軌道の三次元的形状を理解・記憶するところから始まり,二番目に水素分子(H2),窒素分子(N2),酸素分子(O2)などの等核二原子分子の分子軌道(D∞h対称)を取り上げ,結合性分子軌道と反結合性分子軌道の形状(位相)の違い,常磁性分子と反磁性分子の違い(スピン量子数)などを学習する.三番目に一酸化炭素分子(CO)などの異核二原子分子(C∞v対称)を計算し,異なる原子軌道(基底関数)の線形結合で形成される分子軌道の本質を学生は実感する.そのあとは身近な小分子,例えばアセチレン分子(C2H2, D∞h対称),水分子(H2O, C2v対称),アンモニア分子(NH3, C3v対称),ベンゼン分子(C6H6, D6h対称),メタン分子(CH4, Td対称),六フッ化ウラン分子(UF6, Oh対称)などを次々と計算し,分子の形状,点群,分子軌道の多様性を知ることになる.様々な分子の分子軌道を計算した際,多種多様な結合の比較が興味深い.水分子のO-H結合,アンモニア分子のN-H結合,メタン分子のC-H結合などはいわゆる単結合,ベンゼン分子のC-C結合は共役系1.5重結合,アセチレン分子のC≡C結合は3重結合などと呼ばれているが,それらは原子間の共有結合性の強さの目安となる有効共有結合電荷(Bond Overlap Population)を計算するプログラム(BNDODR)の出力(BN8)を読みとることで結合の強さを比較検討できるし,さらにHOMO近傍の電子占有分子軌道の三次元的形状をVESTAで読みとることにより,より具体的に結合の正体を突き止める事ができる.限られた講義・実習時間内で,身近な分子の電子状態をeduDV+ DV-Xα法計算支援環境をGUIとしてDV-Xα法で計算し,計算結果(数値,三次元的な画像)を出力できることは教育的価値(効果)が高い.化学の教科書で言われている単結合,共役系1.5重結合,二重結合,三重結合などは,通常,教科書では定性的な図(結合性分子軌道の数と形状)で説明されているが,実際には例えば同じ単結合といえども結合の強さは同一ではない.単結合を有する異なる分子をそれぞれ電子状態計算すれば,すべての有効共有結合電荷が1.0となるわけではなく,例えば0.65であったり,0.72であったりと,様々な程度の有効共有結合電荷が算出され,結合の強さは具体的に比較検討できる.VESTAで結合性分子軌道を三次元可視化し,その分子軌道が,どのような原子軌道から構成されているかを調べるポピュレーション解析プログラム(POPANL)の出力(F08P)を読みとれば,結合の定量的な本質を見極める事ができる.そうは言っても,単結合,共役系1.5重結合,二重結合,三重結合という定性的な分類は,化学結合の分類としては有意である.それぞれの結合を有する身近で代表的な分子の電子状態を計算,その結合を深く理解する事は教育的価値が高い.化学でこれらの結合の分類がもっとも多く出現するのは,有機化学の炭素-炭素間結合であろう.炭素-炭素結合における単結合,共役系1.5重結合,二重結合,三重結合を有する代表的な分子としては,単結合はエタン(C2H6, D3d対称),共役系1.5重結合はベンゼン(C6H6, D6h対称),二重結合はエチレン(C2H4, D2h対称),三重結合はアセチレン(C2H2, D∞h対称)であり,これらが最も単純なものであろう.多くの有機化学・量子化学の教科書でもこれらの分子が取り扱われている.これまでのeduDVでは,ベンゼン(C6H6, D6h対称),アセチレン(C2H2, D∞h対称)は計算できていたものの,エタン(C2H6, D3d対称),エチレン(C2H4, D2h対称)は計算できなかった.そこで今年度は,eduDVで計算可能な分子形状の項目を一つ増やし(現在20種類であったものを21種類に拡張し),エチレンに代表されるA2B4型(D2h対称)分子の計算を可能とするべく,Fortran 77言語を用いてコーディングし,新たなソースコードを完成させた.その結果,炭素-炭素間が1.5重結合(ベンゼン),二重結合(エチレン),三重結合(アセチレン)の各分子を講義で取り扱えるようになった.エタンに代表されるA2B6型(D3d対称)分子については,来年度にプログラミングする予定である.

発表雑誌等の名称

岡山理科大学情報処理センター研究報告(The Bulletin of the Information Processing Center, Okayama University of Science)

出版者

岡山理科大学情報処理センター

32

開始ページ

11

終了ページ

36

発行又は発表の年月

2011/03

査読の有無

無し

招待の有無

無し

記述言語

日本語

掲載種別

研究論文(研究会,シンポジウム資料等)

ISSN

ID:DOI

ID:NAID(CiNiiのID)

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