講演・口頭発表等

基本情報

氏名 齋藤 達昭
氏名(カナ) サイトウ タツアキ
氏名(英語) Saito Tatsuaki
所属 理学部 基礎理学科
職名 教授
researchmap研究者コード
researchmap機関

タイトル

フィールド研究から見えてくる自然史博物館の必要性

講演者

齋藤 達昭

会議名

今、岡山に自然史博物館を 自然の敗勢を考える ー生物から学ぶ科学と自然史博物館構想ー

開催年月日

2025/01/26

招待の有無

有り

記述言語

日本語

発表種類

その他

会議区分

国内会議

会議種別

口頭発表(招待・特別)

主催者

おかやま環境ネットワーク

開催地

岡山市北区奉還町1丁目7-7 オルガ会議室

URL

概要

 旭川に生息する生物を材料にして、いろいろなフィールドワークの研究を行ってきた。今回は、おかやま環境ネットワークによる継続的な助成(14年間)を受けた旭川かいぼり調査から派生して得られた研究について紹介したい。

 旭川かいぼり調査とは、竹枝小学校前の分流部の川の水を堰止めて、川を干上がらせた状態にし、そこに生息する生物相(魚類と水生昆虫)や河床の構造を調査するものである。この調査は、毎年11月上旬に市民参加型のイベントで、市民に旭川について関心をもらうために、岡山理科大学に学生を含めて400-500人規模で実施されている。今年は、残念ながら台風による増水のために中止された。

 私の分担は、魚類の調査について紹介する。かいぼり調査では、旭川で調査時に捕獲された魚種・アカザとカジカについて標識採捕法による推定個体数を行ってきた。(カジカの推定個体数は2014年からである。)捕獲魚種は、年によって変動するが、20-31種の間で変動しており、1地点の調査では旭川でも比較的高い魚種数を示している。

かいぼり調査のきっかけは、「当時の竹枝の小学生が『旭川ダムができてから、石が固まってアカザが減った』とおじいさんがいっていたがほんとうか調べてみたい」という疑問に答える形で始まった。しかし、ミニかいぼりを行ってみると、アカザが予想外にも多く捕獲された。そうすると、沈み石を浮き石に変えたら、アカザがもっとふえるのかという疑問がわいて、翌年も継続的に調査することになった。翌年調べて見ると、確かにアカザの捕獲数が増加したのである。

 一方、カジカは、2011年の台風による出水後に、今までいなかったカジカの3 cm程度のものが多く捕獲されるようになった。翌年調べると、それらのカジカの個体が大きくなり、このエリアに定着している可能性が出てきた。アカザとカジカは、浮き石の下に隠れ、水生昆虫を餌にしていることから、生息場や餌では競争関係になるので、2014年度からカジカも推定個体数を調べておく必要が生じた。

 2021年度に推定個体数が両者とも激減した。8月の台風による出水が大きく影響したのかもしれない。その後、アカザについては、ほぼ元のレベルまで回復したが、カジカについてはまだ回復途上である。

 調査から派生した研究として岡山県のアカザにおける2系統(クレード)の研究とカジカにおける上流部と中下流部での形態変化の研究についても簡単に紹介する。

 自然史博物館の役割は、3つの機能がある。1)資料の収集と保管、 2)調査研究、3)科学教育・防災教育である。いままでの研究でも、過去の生物標本等が収集し、保管されていれば、助かるのに痛感したことがある。岡山の貴重種(絶滅危惧のランクが高い種)は、2009〜2020年で235種増えた。分類による内訳をみると、1番目植物門・2番目軟体動物門(貝類)・3番目昆虫類・4番目鳥類・5番目魚類の順である。これらの貴重種を含まれる生態系を見ると、ヒトの関与が必須な生態系に属している種が多い。すなわち、干潟・ため池・二次林・松林・草原・湿地などである。ヒトが管理を放棄するとただちに生態系の遷移が起こり、また地球温暖化の影響を最も受けやすいエリアでもある。地球温暖化を受けやすい生態系を守るためには、多くの一般市民が関心をもってもらう必要がある。自然と関わりがなくても過ごせる社会の中で、ボランティア活動に頼る普及啓発ではなく、常設の場での啓発活動や一般市民が容易に自由に深く学べる地域の空間が必要だと思う。

特に、旭川は我々の水源であり、大出水期になれば、大きな被害をもたらす河川である。特に、旭川は、常に関心をもってもらいたい対象である。