岡山県鏡野町白賀渓谷を囲む山頂域にて,風力発電所建設計画が進められていることを受けて,緊急総合調査を実施した.その結果,この地域は暖温帯域と冷温帯域の境界域にあり,両温度領域に分布の中心を持つ生物群の逃避地(レフュジア)となっているだけでなく,過去のブナ林が作り出した良質な土壌環境を反映して小型哺乳類相は健全に保たれ,多様な環境を反映して希少な鳥類相が多く生息するとともに,豊かな底生動物相が見られること,オオサンショウウオは在来固有種のみであることや両生爬虫類は多くが希少種であること,これらを支える要素として,伏流水が各所で湧出する部分と岩盤や巨石の卓越する部分がモザイク状に併存する特有の環境を維持していることが明らかになった.稜線域での開発は,希少な森林環境が破壊されるだけでなく,下流部への土砂流出および地下水脈の遮断と鬱滞によって渓流の環境が致命的な影響を受ける恐れがある.このため,適正な自然林や草原の在り方を踏まえた長期計画をもとにして再生させ維持することにより,生物多様性の高い地域がこれ以上失われないように配慮することが重要であることを指摘した.