【はじめに】ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)は、ヒトにガス壊疽と食中毒を起こす偏性嫌気性有芽胞細菌である。自己溶解酵素(オートリシン)は、細菌のペプチドグリカンを分解する酵素であるとともに細菌の細胞分裂に関与することが知られている。ウェルシュ菌の主たるオートリシンはAcp (CPE1231)であり、 Acpは、シグナルペプチドと10個のSH3サブドメイン(CWB)からなる細胞壁結合ドメインとN-アセチルグルコサミダーゼ活性ドメイン(AcpCD)からなる分子量120 kDaの酵素である。我々は、Acpの3番目と4番目のCWBの間で切断された7つのCWBを持つAcp(95 kDa)が隔壁および極に局在すること、CWB がないAcpCDを持つ菌では細胞分裂に異常をきたし菌体が長くなることを明らかにしてきた。 本研究では、Acpの機能にCWBがどのように関与しているかを明らかにすることを目的とした。
【方法】Acp欠損株(13 acp::erm)株は、Bruno Dupuy博士(パリ・パスツール研究所)から分与された。またもう一つのAcp欠損株(HN13 Dacp)はin-frame deletion法で作製した。さまざまな個数のCWBを持つAcpをコードする遺伝子(acp)をプラスミドpXC1のキシロース誘導型プロモーター下流に挿入し、Acp欠損株に形質転換した。対数増殖期にキシロースを培地に添加し、プラスミド上のacp遺伝子に誘導をかけ、菌体の長さに変化が生じるか調べた。その際、グラム染色は、フェイザー法を用いた。Acpの発現はウサギ抗AcpCD抗体を用いたWestern blot法で確認した。Acpの隔壁または極への局在は、培養したウェルシュ菌を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、ウサギ抗AcpCD抗体、Alexa Fluor®594標識抗ウサギIgG抗体を室温で反応させ、共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察した。
【結果と考察】さまざま濃度のキシロース存在下において、acp遺伝子を発現させたところ、0.05%キシロースでその発現が誘導されることが確認された。0.05%キシロース存在下で、いくつかのCWBを有するAcp菌体の長さを測定したところ、5つのCWBを持つAcp(6-10 CWB+CD)は完全なAcp(1-10 CWB+CD)とほぼ同じであったが、2つのCWBしか持たないAcp (9-10 CWB+CD)では菌体が有意に長くなっていた。さらに、共焦点レーザー走査型顕微鏡で観察したところ、Acp (9-10CWB+CD)、Acp (10 CWB+CD)、AcpCDでは、Acpの隔壁、および極への局在が認められなかった。以上のことから、CWBの数がある一定(2個)以下になると隔壁や極に局在できなくなり、細胞分裂に異常をきたすことが明らかになった。よって、CWBの数がAcpによる細胞分裂に影響を与えると考えられた。