モンゴル国ゴビ砂漠に分布する上部白亜系中部から上部にかけて,多丘歯類を中心に保存状態の良い哺乳類化石が多産し,中生代哺乳類の進化理解に大きく貢献してきた.一方で,上部白亜系下部からの哺乳類記録は著しく不足している.この時間的空白は,モンゴルにおける白亜紀哺乳類の進化を理解する上での大きな制約となって きた.近年,ゴビ砂漠東部に分布するBayanshiree層より複数の哺乳類化石が報告され,記録の空白が埋まりつつある.しかし,その直上に分布する Javkhlant 層からの哺乳類化石については,詳細な分類学的検討がない状態が続いていた. 本発表では,2023 年に実施された蒙・IP と岡山理科大学の共同調 査によってJavkhlant 層より新たに発見された哺乳類化石について報告する.標本は露頭の表面に散在していた脊椎動物化石の中から 回収された部分的な左下顎骨である.標本表面は分離の悪い堆積物に覆われており,表面形態の観察は困難である.今回,X 線 CT 撮影を実施した結果,比較的発達の弱い単歯根の犬歯,著しく破損した歯冠を伴う第1~第3小臼歯,及び,その後方に歯冠を完全に欠く第4,第5小臼歯,第1大臼歯のものと思われる複数の歯根の保存を確認した.また,下顎体腹側に前後方向にのびる切歯と思われる歯根が観察され,開放根であることを確認した.この切歯や歯列の特徴から,本標本は Zalambdalestidaeに属する真獣類であることが示 唆された.また系統解析の結果,この分類を支持する結果も得られた.本標本は,これまでの哺乳類化石記録の時間的空白埋める標本であり,今後の詳細な検討によって,本科の進化やモンゴル上部白 亜系における哺乳類相の変遷を評価する上で,重要な標本になるこ とが期待される