兵庫県東部に分布する下部白亜系篠山層群大山下層は、恐竜類を中心とする多様な脊椎動物化石が多数発見されており、東アジアの白亜紀における陸域生態系の解明において重要な地層である。本層の堆積年代は、基底部の凝灰岩中のジルコンの U–Pb 年代に基づき、112.1 ± 0.4Ma と推定されている (Kusuhashi et al., 2013)。しかし、本層に挟在される凝灰岩の堆積学的・岩石学的特徴には未解明な点が多い。本層の化石群や堆積環境の変遷を復元するためには、火山砕屑岩類について噴火から堆積に至る地質学的プロセスとその諸特徴と年代を明らかにすることが必要不可欠である。そこで本研究では大山下層中の凝灰岩を対象として、詳細な地質記載を基礎に、肉眼と顕微鏡による記載、EPMA による組成マッピングと構成物の定量分析、XRF による全岩化学分析を行った。 大山下層中の 3 ルートの凝灰岩を研究対象としたが、ここでは模式地である大山下ルートにおける凝灰岩について報告する。本ルートの凝灰岩層は全層厚約 11mで、層厚約 4mの砕屑岩層を境に、層厚約 7m、20 ユニットからなる下部層(SSY-1)と、層厚約 3 m、6 ユニットからなる上部層(SSY-2)に区分される。いずれの凝灰岩層も塊状部と層状部からなる。塊状部は細粒の火山砕屑物からなり、babble wall 型火山ガラスおよび火山豆石を含む。これらの特徴から、塊状部は堆積過程での分級などの影響をほとんど受けていないと推定される。一方、層状部は wave ripple の存在から波浪の影響を受け る湖沼域で堆積したと考えられる。また、混濁流や hyperpycnal flow など、水域内で発生する重力流による堆積物と解釈される堆積構造もある。 火山砕屑物としての本質物の実態を明らかにするためには水による分級が起こっていない塊状凝灰岩が有効である。塊状凝灰岩は babble wall 型火山ガラス、結晶片、軽石片、変質や風化した鉱物片、細粒の基質からなる。火山ガラスや軽石片は2次鉱物に交代されている。結晶片は長石、石英、鉄鉱、アパタイト、ジルコン、ガーネット、黒雲母、褐簾石からなる。 ガーネットの組成は以下のように多様である。Al₂O₃ = 24.9–16.9wt%, FeO = 35.4–7.9wt%, MnO<11.8wt%, MgO<8.9wt%, CaO = 23.6–0.7wt%。鉄鉱は端成分 に近い磁鉄鉱で、チタン鉄鉱は含まれていない。ジルコンは結晶の外形が直線的なもの(自形結晶)と、結晶面が曲面を示 すもの(非自形結晶)の 2 タイプに区分される。EPMA 分析の結果、自形結晶は CL 画像において明暗の累帯構造が明瞭であり、WDS による組成マッピ ングから、CL 画像の暗部は Y および P に富む(図)。一方、非自形結晶では 同様の傾向は顕著ではない。組成は以下のとおりである。Hf は自形、非自形 結晶ともに 2.0–1.3wt%である。自形結晶は Y₂O₃<0.35wt%、Fe₂O₃<0.09wt%、 P₂O₅<0.83wt%である。非自形結晶は Y₂O₃<0.09wt%、Fe₂O₃<0.06wt%、P₂O₅ <0.30wt%であり、両者に相違が認めら れた。自形結晶は凝灰岩を供給したマ グマに由来する可能性が高く、また累 帯構造を示すことから、部分によって 形成年代も異なっている可能性もあ る。この場合、リムの年代が噴火年代、 すなわち堆積岩の形成年代となる。 塊状凝灰岩は珪長質で、全岩化学組成は以下のとおりである。SiO₂ = 78.94– 74.27wt%, TiO₂ = 0.10–0.02wt%, Al₂O₃ = 15.21–12.09wt%, Fe2O3 = 1.82–0.94wt%, MnO = 0.04–0.02wt%, MgO = 0.94–0.29wt%, CaO = 2.20–0.40wt%, Na₂O = 5.09– 1.01wt%, K₂O = 5.04–0.94wt%, P₂O₅ = 0.10–0.02wt%。