分裂簡約代数群の表現論は,原理的には付随するルート・データやワイル群の言葉で記述することが可能であり,既約表現の分類や指標理論などの研究が今日に至るまで盛んに行われてきている.一方で,スーパー代数群は Deligne が指摘したように対称テンソル圏の理論で本質的な役割を果たすが,それ自体の構造論や表現論に関する研究はまだ始まったばかりであり,非スーパーのときと比べて十分理解されているとは言い難い.例えば「付随するルート系の言葉で既約表現のパラメータを記述せよ」という問いは表現論において基本的であるにもかかわらず,いくつかのスーパー代数群に対して個別にしか解決されていない.統一的にスーパー代数群の表現論を展開することの大きな困難としては,スーパーの場合はルートやボレル部分群の振る舞いが特異であり,それらを統一的にコントロールする上手い言語がまだ十分に整っていないという点があげられる.
本講演では,スーパー代数群の定義から始めて,いくつかの具体例をそのルート系とともに見ていく.そして誘導表現を用いた既約表現の構成法(Borel-Weil の手法)を紹介し,現状でどこまで(既約)表現に関して分かっているのか,またどのような困難があるのかを具体例を見ながら解説する.その後に Serganova らによって導入されたワイル群のある意味の補完である奇鏡映と呼ばれる操作によるボレルの取り替えで,誘導表現がどのように振る舞うかを説明し,その様子を観察することで既約表現のパラメータ集合が(完全ではないが)ある程度決定できることを説明する.