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哺乳動物では,妊娠後期に循環血液量が増加し,心臓に大きな容量負荷を生じる。ヒトでは,この生理的変化は心不全のリスク上昇と関連しており,猫においても妊娠後期に同様の血行動態変化が報告されている。本報告は,妊娠後期に心不全を発症し,内科的に管理された結果,自然分娩に至った猫について報告する。症例はロシアンブルー,3歳,雌であり,妊娠中に急性の呼吸困難を呈した。胸部レントゲン検査および心エコー図検査で心臓の拡張と胸水貯留が認められた。飼い主の都合により,頻回の通院や入院管理は不可能であったため,飼い主の了承を得た上でピモベンダンを処方し,心不全の改善を試みた。本症例の呼吸器症状は速やかに回復し,第5病日には自然分娩で3頭の子猫を出産した。出産後の経過観察では症状の再発はみられず,心エコー図検査指標も改善しており,ピモベンダンの休薬後も臨床症状や検査指標に著変はみられなかった。既往歴や心エコー図検査から心筋症などを疑う所見は明らかでなく,本症例における心不全の原因としては妊娠後期の生理的な血液量増加によるものであることが疑われた。本報告は,心疾患の既往がない猫でも心不全を発症するリスクがあることが示している。妊娠中の猫における安全性はまだ不明であるが,本報告の結果からピモベンダンは妊娠後期に心不全を発症した猫の内科的管理をするための有効な治療選択肢となるかもしれない。 |