序文
バイタルサインとは、心拍数や呼吸数、体温など生体から得られる生命兆候であり、その中のひとつである呼吸数は安静時の胸郭の動きを目視もしくは触知することで測定している。しかしながら、酸素ケージ内で入院管理が行われる動物の呼吸数を測定する場合には、扉越しまたは一時的に扉を開放して測定をする必要があり、正確な呼吸数が得られないことや酸素ケージ内の酸素濃度を低下させてしまうといった可能性がある。
そこで今回我々は、岡山理科大学理工学部と共同で胸郭運動の強度を感知する非侵襲的な呼吸測定装置を開発した。さらにこれが小動物臨床での応用が可能かどうか、目視によるアナログな呼吸測定と比較して信頼性のある値が得られるかを比較検証することを目的に研究を行った。
材料および方法
対象動物は、岡山理科大学今治キャンパスの実験動物センターで飼育しているビーグル犬8頭である。対象動物の胸郭周囲に呼吸測定装置を装着し測定用PCと接続、測定1回につき1分間、立位安静時での動物の胸郭運動の目視による呼吸数の測定、デバイスから得られる胸郭運動の波形記録を同時に最大10回行った。デバイスにて呼吸運動の波形が正しく得られた測定について波形1つを呼吸数1回として1分間の呼吸数を算出した。得られた値をスピアマンの相関係数を用いて統計解析を行った。本研究は岡山理科大学実験動物管理部会の承認を得て行った。(承認番号:実2023-124)
結果
今回、測定回数に対して胸郭の運動波形が正しく得られたデータは62個であった。これら62個の呼吸回数データの最大値や最小値および中央値はそれぞれ目視が最大値:33、最小値:10、中央値:18でデバイスが最大値:33、最小値:8、中央値:17であった。これらについて統計解析を行った結果、r = 0.7689(y=1.754+0.8981)と正の相関が示された。
考察
今回の結果から、本デバイスを用いることで我々が日々ルーチンで実施する呼吸数測定法と同程度の信頼性のある呼吸数を得られたと考えられる。これを用いることで頻繁に扉を開けることが推奨されない酸素ケージ内にいる患者動物の呼吸数や、スタッフが近くにいることで興奮してしまい呼吸数の測定が困難な動物に対しての安静時呼吸数を測定することが可能となる。しかしながら、本実験で得られた胸郭の運動波形のデータは100回の測定のうち62回であり、動物のわずかな体動により運動波形が乱れてしまうことが散見された。今後は胸郭運動の測定感度や体動への対処、呼吸様式と運動波形の関連性について検討を行っていく。