「岩国のシロヘビ」は国内在来種アオダイショウ Elaphe climacophora の白変個体であり、自然界では珍しいことから「岩国のシロヘビ」(以下シロヘビ)として天然記念物に指定され、また、岩国市民からも崇拝の対象として大切にされている。岩国市はシロヘビを半自然下で継代飼育し、その数1,000頭を目指しているが、種々の疾病により未だ目標を達成できていない。本研究では、シロヘビの保護を目的とし、病理学的解析、特に、世界的に野生下へビに甚大な影響を与えている皮膚真菌症に焦点を当てて検索することを試み、次の結果を得た。①ヘビの重大な皮膚真菌症2疾患3菌種(ヘビ真菌症の原因:Ophidiomyces ophidicola 、CANVの原因:Nannizziopsis sp.、Paranannizziopsis sp.)を鑑別するPCR検査法を確立した。②病理学的解析では、シロヘビ12頭を検索したところ、シロヘビの死因として重要な疾病は壊死性腸炎であり、皮膚真菌症では無いことが明らかとなった。また、シロヘビには鉤虫Kalicephalus sp.が高率に寄生していたことから、本鉤虫は壊死性腸炎の誘因または増悪因子の可能性がある。そして経験上、野生下へビに本鉤虫の寄生はほとんど認められない。その他、小腸と膵臓に、過去に報告の無いアデノウイルス(AdV)の感染を認めた。本研究において、ヘビの重要な真菌症2疾病3菌種の鑑別を可能にしたことは、今後これらの疾病の診療と対策に有効である。また、野生下であまり寄生のみられない鉤虫がシロヘビに高率に寄生していたこと、過去に報告のないAdV感染を認めたことは、シロヘビの保護を目的に、複数頭を累代飼育することが副次的に特定の病原体の継代感染/寄生の温床になる可能性、AdVに関してはその集団のなかでウイルスが変異している可能性を示唆している。今後、駆虫などシロヘビの保護活動を継続すると共に、シロヘビに感染しているAdVの遺伝子解析などを行うことで、宿主―ウイルス間の相互関係の解明などを行う。 |