【はじめに】ガス病とは、非感染性で環境・物理的に引き起こされる障害で、溶存ガス圧が大気圧よりも高くなること(過飽和)によっておこる。酸素または窒素ガスが原因となるが、特に湧水や地下水における窒素ガス分圧の上昇によることが多く、すべての水生生物に生じ得る。両生類ではアフリカツメガエルでのみ報告がある。【目的・方法】オオサンショウウオ(GS)2匹のガス病の病理学的特徴を明らかにすべく、常法に従い病理学的に検索した。【経過】2022年某月、同一水槽内の淡水魚とGSの体表および水槽壁面に多数の気泡が付着し、淡水魚55匹以上が死亡(発生第1日)。第2日、魚類約75匹が死亡し、GSの体表に潮紅を認めた。第3日朝、An成体2頭と同居魚複数匹の死亡を確認。なお、第1と2日に計測した溶存酸素量(各75.5%、86.9%)から換算された溶存窒素量の推測値はそれぞれ90.6%、103.1%であった。【結果】2頭のGSには同様の変化が観察された。肉眼的には皮膚潮紅、眼球突出、体腔内主要静脈の鬱血性拡張・血管内ガス貯留。組織学的には全身諸臓器の小血管、毛細血管の鬱血、非鬱血性拡張(血管内に血球を認めないか、血球数の割に高度な拡張)および血管壁と血球がガスを模るような空気塞栓様拡張。これらの血管病変は心臓漿膜下、脾臓、肺、消化管(粘膜~粘膜下織および漿膜下)、肝臓、腎臓、膵臓、皮膚(表皮~皮下織)および眼球(色素上皮細胞直下とその周囲支持組織)に観察された。その他、一部分節化を伴う腎糸球体メザンギウム領域の拡大、肝細胞空胞変性があった。【考察】以上より、2頭のGSを窒素ガス病と診断した。窒素ガス病は120%以上の水中溶存窒素ガス量で生じ、魚類で一般的である。本事例では、溶存窒素量の推測値が近似値であることを診断根拠とした。死因は血管内ガス貯留と血管拡張による高度循環障害とした。