野間馬は今治市の指定文化財に指定されている日本在来馬で、江戸時代から現在まで愛媛県東予地区で継代維持されている。その間、個体数は激減し、現在の個体は1978年に雄1頭、雌3頭を種馬として維持され、国内に約50頭しか飼育されていないため、系統維持は容易でない状況にある。本研究は野間馬の系統維持を目的とし、疾病解析を行った。
【材料と方法】
2020~2024年までの4年間に一飼育機関で死亡した野間馬15頭(雄9、雌6頭)を病理学的に検索した。症例は死亡または安楽死後、速やかに病理解剖を行い、病理学的、微生物学的および分子生物学的に検索した。
【結果と考察】
(1)授乳期・当歳群8頭(症例No.1~8):2021~2023年に出生した13頭のうち8頭が1歳未満で死亡した。その内訳は、死産・出生時死~8日齢が7頭で、3頭(No.1~3)が日和見菌による敗血症死であった。その他、No.4誤嚥・肺水腫、No.5体躯の矮小、No.6重度心奇形(三尖弁閉鎖症)による循環不全およびNo.7死産疑いを認めた。No.8は約7か月齢の個体で高度削痩、細菌性化膿性肺炎・肺水腫によって死亡した。(2)壮年個体(No.9、4歳):小腸捻転および胃拡張で死亡した。その他、切歯破裂・不正咬合を認めた。(3)老齢個体(No.10~15、18~30歳):これらの死因はNo.10高度削痩、細菌性気管支肺炎、No.11神経内分泌細胞癌の全身転移、がん性腹膜炎、No.12マラスムス、No.13寛骨粉砕骨折と周囲軟部組織断裂による出血性ショック、No.14高度削痩、悪液質および肺水腫、No.15高度削痩、脱水、左腸骨粉砕骨折であった。これらの内、No.10に甲状腺腫瘍、No.14に甲状腺過形成およびNo.15に下垂体腺腫および褐色細胞腫を認めた。また、不正咬合が症例No.9、12および14にみられた。
一般に仔馬の死因は生後約7日齢までに細菌性敗血症による死亡が多いことが知られている。野間馬の新生~当歳馬においても死因は様々だったが、同様の事例を認めた。新生仔馬の細菌感染には、母仔ともに動物の免疫状態が深く関与している。野間馬の飼養管理には十分配慮しているが、周産期における母馬の健康管理および母馬・仔馬ともに飼養環境の管理をより一層向上させる工夫が必要と考えた。また、3頭に4種類の内分泌腫瘍を認めたことから、野間馬では内分泌系腫瘍の発生が高いことが示唆された。